感染下の「千年王国」 横尾忠則さんの新作は新型コロナが描かせる

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新たな画想を授かって

   ちなみに、横尾さんに対する寂聴さんの返信には「ヨコオさんは描く度、新しい画想を、授かるようですが、小説はそうもうまくゆきません」とあった。

   1960年代から創作の第一線で活躍し、交流を続けるご両人。交わす「書簡」のテーマは仕事や社会のことから身辺雑記まで幅広いが、おのずと健康にまつわる話が多くなる。経験豊富なお二人にしても、人生のこのタイミングで迎えたコロナ禍は想定外だろう。

   横尾さんが描く「千年王国」とは、いかなるものなのか。5月12日の朝日新聞への寄稿で、ご自身がこう語っている。

「作品は環境の変化に敏感に反応するので、僕を取り巻くコロナ的現状によって、作品は忠実にコロナにインボルブされ、いやな空気感を発生し始めている。しかし如何なる表現を取ろうと、自作を否定するわけにはいかない。こうした環境の中で生まれた作品こそ、時代の証言者になり得ると、僕は自作を肯定する」

   外出自粛の下で描く作品が、コロナの影響を受けないはずがない。感染症やウイルスを直接のテーマにしたものではないが、その絵に向き合えば「コロナ感染の危機感」を覚えるかもしれないという。ますます興味がわく。

   ためにするフェイクニュースをはじめ、誹謗中傷、運命論、陰謀論など、雑多な地下情報がうごめくパンデミックである。そんな時代を、芸術家は己の感性で切り取るだろう。

   改めて横尾版「千年王国」の完成、公開が待ち遠しい。かなうならコロナを乗り越え人心地ついた状況で、「あの時代」を語り合いながらゆったり鑑賞したい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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