「すべて天空のもとに」と「古き自由な北の国」
グリーグは、以前ご紹介した「抒情小曲集」のようなピアノ・ソロの曲や、室内楽といった小編成の作品を得意としましたが、スヴェンセンは指揮者だけあって、そのほとんどの作品が管弦楽のための作品となっています。「2つのスウェーデン民謡 Op.27」も、民謡という素朴な題材を扱っているので、他の作曲家ならピアノ曲やピアノ伴奏の弦楽器の曲にしてしまいそうですが、スヴェンセンは弦楽オーケストラのために作曲しました。
1曲目には「すべて天空のもとに」、2曲目には「古き自由な北の国」というタイトルが付けられています。もとの題材が民謡のため、大変わかりやすく親しみやすい旋律がヴァイオリンなどによって演奏されます。2曲とも、どこか悲しげではかなげなメロディーなのは、世界の他の多くの民謡がそうであるように、歴史に揉まれた人々の感情が現れているからかもしれません。しかし、弦楽のみの編成で演奏されるため、サウンドがクリアで、清々しさを感じる曲でもあります。
1曲が3分ほどで、全体でも6分ほどで聴き終えることが出来るこの曲は、初夏のこの時期に、北欧の空を想像して、聴きたい佳曲です。
ちなみに、2曲目の「古き自由な北の国」に使われたスウェーデン中部ヴェストマランド地方の民謡には、民俗学者で作家でもあったリッカルド・ディベックによって詞がつけられています。「汝のいにしえの歴史、汝の自由、汝は峰が連なる山岳地帯の北の国・・・」と歌い始められるこの曲は、現在のスウェーデン国歌です。
武装中立という国家体制を維持し、今回のコロナ・ウィルスに対しても他の欧州諸国とは異なり、「厳しいロックダウンはしない」という方針で臨んだスウェーデンには、独立独歩の気概をいつも感じます。北欧人スヴェンセンのこの曲は、そんな「誇りの高さ」も表現しているような気がします。
本田聖嗣