感動的なお涙頂戴では終わらない
語り部としての自覚、というのだろうか。これまでのアルバム発売時や自身のホームページなどで「愛とは」というテーマでリスナーの体験談などの書き込みを求めていたこともある。2012年に出たベストアルバムは「BEST STORY~Love stories」「BEST STORY~Life stories」の二枚。アルバムチャートの1位、2位を占めた。「YOUR STORY」は、「Love」「Life」とテーマを分けた前回よりも更に「愛」に特化している。そして、内容も更に踏み込んだものになっている。
「YOUR STORY」の52曲の流れが、一般的な「ラブストーリー」に収まっていないのは、DISC4を聴けばわかる。その代表的な例に、一昨年のアルバム「I」に入っていた「かわいそうだよね」がある。
自分が「選ばれた女」と自負している女性が「かわいそうだよね」「ああはなりたくないね」と見下したように同情していた相手と今の自分を比較している歌。ある時、自分がそういう存在になってしまっていることに気付いてしまう。「かわいそうなのはあたしだった」「あたしにしかできないことなど何もなかった」と自虐的に歌っている。作詞作曲は平井堅だ。
「私ってやさぐれなんだけど、なかなかそうは見られない、そんな歌は誰も書いてくれないし、と話してたら堅さんが俺が書こうか、と言ってくれて出来た歌です。テーマはやさぐれ、です(笑)」
JUJUのコンサートに初めて足を運んだ方は、彼女のさばけた話っぷりに新鮮な印象を持つに違いない。ジャズが歌いたくて10代の時に渡ったニューヨーク仕込みの話のテンポと回転の速さ、そして、客席に対しての細やかな気遣いと気風の良さ。インタビューで「将来は寝そべる事が出来るようなカウンターのあるバーをやりたい」と言っていたこともある。「YOUR STORY」のフィナーレも、感動的なお涙頂戴では終わらない。そういう「愛の予定調和」を一蹴したような曲が、52曲目の「STAYIN' ALIVE」だ。冒頭から「涙流せば虹が出るセオリー もう飽きちゃってるんです」なのだから。泥沼でプライドがズタズタになって、シャワーの中で一人泣こうと、「かかってきなさい未来」「痛いの飛んでいけ」と歌い飛ばしてしまうあっけらかんとした大人の前向きさは、ここまでのキャリアがあってこそだろう。
彼女の音楽人生を決定づけた「奇跡を望むなら...」は、今、受験ソングとしても聞かれているのだと言う。「奇跡を望むなら 泣いてばかりいちゃだめさ」という歌詞が一縷の望みに向かう若者たちの気持ちに届いた。明日が見えない2020年の日々の中でどんな風に聞かれるだろう。
人を愛するという気持ちに年齢はない。DISC1の新曲「あざみ」は、愛する人を「見送る歌」だった。
「YOUR STORY」52曲の「喜怒哀楽」。愛とはこんなにも苦しく、こんなにも愛おしいものなのか。YOU TUBEでは、「Theater」別の全曲のライブ映像が公開されている。
9月にはツアー「YOUR STORY」が決まっている。その時には、全国でライブ活動が再開されていることを祈るばかりだ。
(タケ)