ビゼー「子供の遊び」 素朴なピアノ連弾と多彩な音色の管弦楽曲

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   今年は、新型コロナウィルス感染拡大を防ぐために、不要不急の外出を避けて在宅するという静かなゴールデン・ウィークとなった日本ですが、5月5日は「こどもの日」の祝日でした。本来なら、子どもたちは外で思いっきり遊びたかったでしょうが、今年は、マスクをして、人との距離を開けて、短時間で・・などと色々気にしなければいけませんし、感染拡大が心配されている地域では、公園なども閉鎖中でなかなかのびのびと遊べなかったと思います。

   せめて音楽の中だけでも思いっきり遊ぼう・・・ということで、今日取り上げる曲は、フランスの作曲家、ジョルジュ・ビゼーの「子供の遊び」です。この名を持つ彼の曲集は二つ、1台のピアノを2人で弾く「ピアノ連弾」の組曲と、オーケストラで演奏される管弦楽組曲が存在します。ピアノ連弾曲は全部で12曲、管弦楽組曲は5曲からなり、演奏時間も22分強に対して11分程度と、ちょうど半分ぐらいになっています。実は、管弦楽バージョンは、ピアノ連弾曲集の「抜粋編曲版」なのですが、曲順も変えられていますので、かなり異なった印象があります。

  • ビゼーの肖像
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近代フランスの隠れた名曲

   フランスでは、次のようなパターンが多くあります。

   首都パリは、古くからの都会で、大規模なホールがオペラ座を除くと多くなく、その代わり「サロン」と呼ばれるような芸術家たちの集う場所があちこちにあるので、サロンで上演するために、最初はピアノのソロまたは連弾で作曲され、その後、評判が良いと編曲をして大規模なオーケストラバージョンを作る・・・という流れです。19世紀は、急速にピアノの技術革新が進み、多彩な音色を出すことの出来る楽器になっていましたし、作曲家にとっても、最初からオーケストラ版を作って失敗することを防げたりしますから、このピアノ版で発表、その後編曲してオーケストラ版という流れは、フランスにおいてはメジャーになりました。

   ビゼーは、わずか36歳で亡くなってしまった悲運の人でしたが、子供の頃から天才と呼ばれるような才能を発揮しており、代表作のオペラ「カルメン」や、死後友人によってまとめられた部分もある「アルルの女組曲」など、優れた作品を残しました。そして、カルメンの冒頭、セビリアのタバコ工場前のシーンで、本筋にはあまり関係のない子どもたちの合唱シーンを挿入したり、子どもたちの描写が好きだったように感じます。

   組曲「子供の遊び」は、鬼ごっこや、ぶらんこ、コマ回し、人形、シャボン玉、などと素朴な子どもの遊びをタイトルにした曲が並んでおり、「カルメン」のシーンにも似ている「ラッパと太鼓」という子どもたちが楽しく戯れている描写などもあります。素朴さが一層際立つピアノ連弾版も、軽快な感じはそのまま、オーケストラの多彩な音色を楽しむことの出来る管弦楽版も、どちらも甲乙つけがたい、かわいらしい曲です。のびのびと遊んでいる子どもたちを想像しながら楽しみたい、近代フランスの隠れた名曲です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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