海を渡る恐怖、陸地を目指す喜び

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地図もなく通信もせず

   磁石、時計、GPSのない時代の航海は、天体、雲、風、波、鳥などあらゆる自然を観察して行われていた。内田沙希さんは、マオリ族の夫とともに、この伝統的ナビゲーションをハワイで実践している。その内田さんの夫も加わって航海が始まる。台湾のスオウから与那国島まで、目的地から50キロ圏内になるまで陸地は見えないという容易ではない条件だった。不眠と疲労の中で、三日目の夜明け前に西崎灯台がカシオペア座の方向、北北東に見え、航海は成功した。

   日本に人類が到達したのは、海水面が下がった氷河期に陸づたいで、と思っている人が多いかもしれないが、船で海を渡るしか選択はなかった。現代人が挑戦しても難しいこの課題に挑んだ理由が何かはいまだわかっていない。

   石垣島に暮らす八幡暁さんは、オーストラリアから日本列島まで、GPSを用いないでシーカヤックで単独航海する旅を何回かに分けて続けている。フィリピン諸島は周囲から数百キロ離れており、陸地が見えない中で数日間漕ぎ続ける必要がある。海を渡ることは人間にとって大きな恐怖でもあるが、遠くに見える陸地を目指して漕ぎ続ける喜びも大きいと語る。

   古代の営みは、漁労、狩猟、農業と食に関連して語られることが多いが、東南アジアから出発したホモ・サピエンスが、太平洋の各地へ拡散した動機はなんだったのだろう。その事情が何であれ、移動は、文化や生活の交流と発展をもたらす大切な営みだ。より良い暮らしを求めて知らない場所を旅しようとする私たちのDNAに、それが受け継がれているのだろう。

ドラえもんの妻

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