超えられぬ上下関係
演出家も役者もその道のプロだから、よほどの新人でもない限り、自分の考えや手法がある。老若男女は関係ない。映像作品でも舞台でも、自己主張のぶつかり合いが撮影現場や稽古場に緊張感を満たし、文字情報のみの脚本に生気を与え、肉づけしていく。
ただ現実には、大御所の演出家と若手俳優の間には超えられない「上下」の関係がある。自身も著名な劇作家、演出家である鴻上さんの真意は、欧米の同業者と同じく「ちゃんとぶつかろうよ」ということではないか。ことさら現場をギスギスさせる必要はないが、真剣勝負を重ねてより良い作品にしたい、異論があるならその場で言ってくれ...と。
日本の「楽園」的な現場では演出家も役者も鍛えられず、ひいては作品のレベルも高まらない。そんな、業界人としての危機感もありそうだ。
「演技とは役の気持ちになること」...鴻上さんの考えは演劇人のイロハだろう。まじめに役づくりに努める俳優なら、演出家に100%服従するはずがない。
単純には比べられないにしても、鴻上コラムを読んで「デスクと一線記者」の関係に思いを馳せた。どちらの立場も経験したので自信を持って書いてしまうが、もめながら、時には怒鳴り合いの末に出稿した記事のほうが、総じて出来はいい。
冨永 格