演出家と俳優の戦い 鴻上尚史さんは日本人の従順さが物足りない?

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超えられぬ上下関係

   演出家も役者もその道のプロだから、よほどの新人でもない限り、自分の考えや手法がある。老若男女は関係ない。映像作品でも舞台でも、自己主張のぶつかり合いが撮影現場や稽古場に緊張感を満たし、文字情報のみの脚本に生気を与え、肉づけしていく。

   ただ現実には、大御所の演出家と若手俳優の間には超えられない「上下」の関係がある。自身も著名な劇作家、演出家である鴻上さんの真意は、欧米の同業者と同じく「ちゃんとぶつかろうよ」ということではないか。ことさら現場をギスギスさせる必要はないが、真剣勝負を重ねてより良い作品にしたい、異論があるならその場で言ってくれ...と。

   日本の「楽園」的な現場では演出家も役者も鍛えられず、ひいては作品のレベルも高まらない。そんな、業界人としての危機感もありそうだ。

   「演技とは役の気持ちになること」...鴻上さんの考えは演劇人のイロハだろう。まじめに役づくりに努める俳優なら、演出家に100%服従するはずがない。

   単純には比べられないにしても、鴻上コラムを読んで「デスクと一線記者」の関係に思いを馳せた。どちらの立場も経験したので自信を持って書いてしまうが、もめながら、時には怒鳴り合いの末に出稿した記事のほうが、総じて出来はいい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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