混沌こそ台湾の味 東山彰良さんが語る故郷の「ぶっかけ飯」その他

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行間から喧噪や匂いが

   このエッセイが巧みなのは、故郷の思い出を記しながら、いまの台湾の「食」ガイドにもなっている点だ。文中にはたくさんの料理や食材がルビ付きで登場し、まるで夜市の屋台をのぞきながら歩くよう。行間からは、喧噪や香辛料の匂いまでが立ち上ってくる。そして贅沢なことに、最後は手づくりデザートでシメるという構成である。

   台湾は人気の旅行先である。近くてコスパがよく、食もハズレが少ないことから、CREAの主要読者層である30代女性の関心は高そうだ。グルメ情報満載の特集はまさにど真ん中のストライク、だから80ページを割く力の入れようである。

   東山さんの役割は「台湾の食」を総括し、魅力的に紹介することだろう。

   「食器なんかろくすっぽ洗ってもいないような屋台」「汗だくになって食う」...鍋から上がる火柱を見て「ああ、いま火事になったらみんな焼け死ぬな」と...作家はワイルドな筆致で読者をグイグイと引っ張っていく。昔話なのに生々しい。

   危ないまでの「混沌」を己の五感で確かめたくなる文章...プロの技だと思った。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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