行間から喧噪や匂いが
このエッセイが巧みなのは、故郷の思い出を記しながら、いまの台湾の「食」ガイドにもなっている点だ。文中にはたくさんの料理や食材がルビ付きで登場し、まるで夜市の屋台をのぞきながら歩くよう。行間からは、喧噪や香辛料の匂いまでが立ち上ってくる。そして贅沢なことに、最後は手づくりデザートでシメるという構成である。
台湾は人気の旅行先である。近くてコスパがよく、食もハズレが少ないことから、CREAの主要読者層である30代女性の関心は高そうだ。グルメ情報満載の特集はまさにど真ん中のストライク、だから80ページを割く力の入れようである。
東山さんの役割は「台湾の食」を総括し、魅力的に紹介することだろう。
「食器なんかろくすっぽ洗ってもいないような屋台」「汗だくになって食う」...鍋から上がる火柱を見て「ああ、いま火事になったらみんな焼け死ぬな」と...作家はワイルドな筆致で読者をグイグイと引っ張っていく。昔話なのに生々しい。
危ないまでの「混沌」を己の五感で確かめたくなる文章...プロの技だと思った。
冨永 格