季節を満喫できない今、聞きたい 故郷の春を懐かしんだグリーグ「春に寄す」

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ノルウェーに今すぐ帰りたいけれど...

   その中でも、「抒情小曲集」は20代から体が悪くなる晩年まで書き続けられた、ライフワークともいうべき作品で、全10集からなる、小さな曲をたくさん集めた曲集です。大きなリサイタルよりはサロンコンサート向きの作品・・という規模の曲がほとんどで、事実、サロンでよく演奏されたそうです。

   抒情小曲集 第3集の最終第6曲が、「春に寄す」です。北欧の「静かにやってくる春」が、ピアノの高音部の音で表現され、春への期待が高まりつつも、一歩一歩やってくる爽やかな風景を噛みしめるような情景描写がとても美しく、単独でもよく演奏されます。

   実は、この「春に寄す」は祖国を離れて、欧州への演奏旅行の途中で書かれた作品です。彼がちょうどデンマークにいる時に、どうしてもノルウェーの春が懐かしくなってしまい、その情景を頭に思い浮かべながら書いた、と言い残しています。今すぐ帰りたいけれど、帰って春の風景を見ることは、実際はかなわない・・・そんな、やるせない想いが込められているのです。聞く人々にその心が通じるからでしょうか、すべてのグリーグのピアノ作品の中でも、ひときわ人気が高く、人々に愛聴される曲となっています。

   現在、世界の多くの人々が、屋外に出て、春を思いっきり満喫することができなくなっています。今こそ、グリーグの「遠い祖国の春への思い」を共有して味わってみませんか?

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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