現代の四苦 五木寛之さんが問う90~100年を生きる覚悟

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「長寿の刑」に耐えて

   ベテラン作家のエッセイやコラムは、男女を問わず勢い加齢ネタが多くなる。五木さんのこの作は、寝たきりにつながる転倒、重い肺炎を誘発する誤嚥、趣味や余暇を縛る頻尿、体調全般に影を落とす不眠...以上を並べて四苦としたところが目新しい。もともとの四苦である生老病死の「老」から派生する不都合である。仏教に通じた筆者らしい発想だ。

   ほとんどの高齢者が経験する苦しみなのに、どうやら先端医学は頼りにならない。おまけに年金は先細り、医療や介護の費用は膨らむばかりとなれば、五木さんならずとも「長寿の刑」と言いたくなる。

   「年寄りを笑うな」というメッセージに始まり、長生きが不幸になる時代への憤りで終わる本作。誰に向けて発信したものかは定かでない。前半は若者に説教しているようでもあり、終盤にかけては先端医療や社会システムに文句を言っているかにみえる。

   世の老人はたいていブツブツ言いながら暮らしているので、五木さんのわだかまりも独り言に近いものかもしれない。私を含めサライ世代の読者は、そんなボヤキを著者と共有することで、新たなブツブツのたねを入手するのである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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