「長寿の刑」に耐えて
ベテラン作家のエッセイやコラムは、男女を問わず勢い加齢ネタが多くなる。五木さんのこの作は、寝たきりにつながる転倒、重い肺炎を誘発する誤嚥、趣味や余暇を縛る頻尿、体調全般に影を落とす不眠...以上を並べて四苦としたところが目新しい。もともとの四苦である生老病死の「老」から派生する不都合である。仏教に通じた筆者らしい発想だ。
ほとんどの高齢者が経験する苦しみなのに、どうやら先端医学は頼りにならない。おまけに年金は先細り、医療や介護の費用は膨らむばかりとなれば、五木さんならずとも「長寿の刑」と言いたくなる。
「年寄りを笑うな」というメッセージに始まり、長生きが不幸になる時代への憤りで終わる本作。誰に向けて発信したものかは定かでない。前半は若者に説教しているようでもあり、終盤にかけては先端医療や社会システムに文句を言っているかにみえる。
世の老人はたいていブツブツ言いながら暮らしているので、五木さんのわだかまりも独り言に近いものかもしれない。私を含めサライ世代の読者は、そんなボヤキを著者と共有することで、新たなブツブツのたねを入手するのである。
冨永 格