2020年上半期の英国関連の大きなニュースとして、本来は、もっとクローズアップされるはずだった英国のEU離脱、いわゆる「ブレグジット」の進行具合と、英国を象徴する王室のハリー王子夫妻が事実上王室を離脱するという「メグジット」などがありました。そこへ、新型コロナウィルスの世界的流行が突如起こり、世界のニュースはそれ一色になりつつあります。
「英国万歳」とともに「権威や抑圧に負けない」
今日は、英国王室関連の行事の時に必ず演奏される曲を取り上げましょう。サー・チャールズ・ヒューバート・パリーの「エルサレム」と呼ばれるオルガン伴奏による合唱曲です。18世紀の同国の詩人、ウィリアム・ブレイクの「ミルトン」という詩につけられた一種の聖歌で、原題は「古代のあの足が」というものなのですが、イエス・キリストが古代のイングランドに足跡を残している、という伝説をもとにしており、「エルサレムを再びイングランドに打ち立てるまで」という内容で締めくくられているので、一般的には「エルサレム」と呼ばれています。
この曲が作られたのは1916年、つまり第1次大戦の真っ最中で、英国国民の士気を鼓舞するために、桂冠詩人であるロバート・ブリッジスがパリーに依頼したものでした。いわば、戦意高揚ソングだったわけですが、ブレイクの詩は、「闇のサタンの工場がある土地に、負けずに、理想郷を打ち立てよう!」というものだったため、産業革命先進国で、社会格差などが問題になっていた近代の英国では、むしろ、労働歌としてや、婦人参政運動のシンボルとしても歌われることになります。「英国万歳」であるとともに、「権威や抑圧に負けない」という意味合いもある・・・誠に、民主主義先進国である英国にふさわしい曲となったのです。
現在では、結婚式や戴冠式といった王室関連の行事で必ず演奏されるだけでなく、イギリス最大の夏の音楽祭、BBCプロムスの最終夜では、「第2の国歌」とされるエルガーの「威風堂々第1番」に歌詞をつけた「希望と栄光の国」に続いて、定番として演奏される曲でもあります。スポーツも、「英国代表」ではなく、「イングランド代表」で出場する時に、この歌を国歌として採用する場合もありますし、左翼勢力、極右政党ともに、この歌をシンボルとしているところがある・・・誠に、「国民的」な曲なのです。