ムード歌謡の時代 堀井六郎さんは有線放送を動かした10円玉を思う

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SNSの「いいね」に相当?

〈七色の虹が 消えてしまったの シャボン玉のような あたしの涙...〉

   「ラブユー東京」をご存じだろうか(私はすぐに歌えます)。懐かしく口ずさむ同世代も多いだろう。1968年から集計が始まったオリコンシングルチャートの、記念すべき初代1位(1月4日付から3週連続)でもある。

   ムード歌謡はハワイアンやジャズ、ラテンなどをベースに、ナイトクラブやキャバレーなど夜の街に生まれ、育てられた楽曲である。ご当地ソングとの相性もいい。

   和田弘とマヒナスターズ、鶴岡雅義と東京ロマンチカ、内山田洋とクール・ファイブ、敏いとうとハッピー&ブルー、秋庭豊とアローナイツなどなど、1960年代から百花繚乱、多くのグループが競った。リーダーの氏名を冠した楽団のようなネーミングも特徴だ。

   堀井さんは、有線放送というキーワードを手がかりに、夜の女たちが支えた新興グループの成功物語をアナログ感たっぷりにまとめている。「ラブユー東京」は甲府市のホステスたちから火がついたという。電話によるリクエストは、今ならSNSの「いいね」に近いか。「いいね」はタダだが、女性たちは財布の硬貨を公衆電話に投入した。

   たかが10円、されど10円。半世紀前、官製ハガキがまだ7円の時代である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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