リストの精神世界がうかがい知れる名曲
その曲調は、いずれも、苦難と甘美さが混在したものであり、メロディーメーカーのリストの実力がいかんなく発揮されています。特に、最後の第123番は、リストの代表作「愛の夢」にも通じるような耽美的なメロディーに溢れ、最終曲である第8番の「ダンテを読んで」と対象をなし、そのヴィルトゥオーゾ表現による厳しい世界を準備する曲となっていますが、私は、この曲は単独でも、リストの精神世界がうかがい知れる名曲として成立しているな、といつも感じて弾いています。
時あたかも、イタリア本国は受難のとき。ペトラルカが愛したラウラは、ペストで亡くなったということになっており、中世の時代にも欧州は幾多の苦難を乗り越えてきました。
リストの「ペトラルカのソネット」の3曲は、現世の苦難の中に心の平安をもたらしてくれる、こういった厳しい時にじっくり聴き込みたい、名曲です。
本田聖嗣