つい使いたくなる季語 川上弘美さんは「湯に浮く乳房」に春を愁う

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「川上弘美になる瞬間」

   NHKの番組「すてきにハンドメイド」は、2010年春からEテレで放送されている。洋裁を中心に、小物から雑貨まで「作ってワクワク、使ってウキウキ。世界でたった一つの作品を作りませんか」がコンセプト。手づくりの楽しさを視聴者と共有する25分間(放送は毎週木曜夜)である。実用番組の常で、NHK出版から作り方を詳解するテキストが出る。

   なるほど、俳句も「たった一つのハンドメイド」ではあるのだが、彩り豊かな写真や図解で埋まるテキストにおいて、芥川賞作家による連載はやや異色のページだった。

   短詩も文学だから、小説家がたしなむことには何の不思議もない。川上さんが俳句を始めたという30代半ばから後半は、文壇デビューの時期と重なる。ちなみに芥川賞は38の時。もはや「作家の趣味」を超えて、俳人でもある。作り手の立場で季語を語るこの連載は、季節感や語感を養うという意味で参考になり、私も愛読させていただいた。

   彼女の初句集に同世代の歌人、穂村弘さんはこんな言葉を寄せている(朝日での書評)。

〈句集としてみても魅力的だが、彼女の小説の愛読者が読むと、一層興味深いと思う。何故なら、川上弘美が「川上弘美になる瞬間」をクローズアップで、何度も繰り返し味わうことができるからだ〉

   ならば大団円を迎えた連載は、「川上弘美による、その瞬間の解説」とでもなろうか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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