中国国家衛生健康委員会新型肺炎対策専門家委員会のトップを務める呼吸器疾患の専門医・鐘南山氏が、新型コロナウイルスによる肺炎感染者1099人の臨床データをまとめた研究論文が、2020年2月9日に公開された。鐘氏は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時にいち早く警鐘を鳴らした専門家として、中国国民から信頼を集め、新型肺炎対策において中国政府とのパイプ役を担う存在になっている。
論文は潜伏期間が24日にも及ぶ感染者の存在や、感染力が強く、多人数にウイルスを広げる「スーパースプレッダー」が既に発生している可能性を指摘しており、感染経路をより正確に知る上で有力なデータとして注目されている。
患者の平均年齢47.0歳、15歳以下は0.9%
同論文は、鐘南山氏と、初期から新型肺炎患者を受け入れている武漢市金銀潭医院、広州市呼吸衛生研究所、湖北省黄岡市中心医院、浙江大学医学院付属第一医院などの研究者37人が共同執筆し、1月29日までに確認された患者のうち552か所の医療機関で診察を受けた1099人の臨床研究から、特徴を整理している。
主な内容は以下の通り(論文のほか、論文を引用した中国メディアの記事も参考にした)。
1:感染経路
1099人のうち483人(43.95%)が武漢市在住だった。一方、非武漢居住者のうち26%は、最近は武漢に入っておらず、武漢市民との接触も認められなかった。
野生動物と直接接触したことのある患者は1.18%にとどまった。
家族感染のような人から人への集団感染、無症状感染者からの感染も認められ、「スーパースプレッダー」と思われる患者もいた。
2:患者の年齢
平均年齢は47.0歳。女性が41.9%を占める。一方15歳以下の患者は0.9%だった。
初期対応のスピードが分けた明暗
3:症状と潜伏期
発熱(87.9%)、咳(67.7%)が最も典型的な症状。ただし病院での最初の診察時に発熱していた人は43.8%しかいなかった。下痢(3.7%)とおう吐(5.0%)は少ない。
患者の25.2%は高血圧などの基礎疾患が認められた。
潜伏期間は平均3.0日。最短は0日、最長24日だった。
4.その他
入院時に肺のCT(コンピューター断層撮影)検査を受けた840人の患者のうち、肺炎の症状があったのは76.4%だった。また、患者の82.1%はリンパ細胞の減少が、36.2%は血小板の減少が認められた。また、33.7%の患者に白血球細胞の減少が認められた。
入院時の症状として一番多かったのは肺炎(79.1%)で、急性呼吸系疾患(3.37%)、ショック(1.00%)だった。
また、中国各地の致死状況について、「広東省では患者は多く出たが、早期隔離、早期診断の予防が効果を発揮し、死者が少なく済んだ」と考察、初期対応がその後に大きな影響を与えることが示唆されている。広東省では2月10日15時現在、感染者は1151人に上っているが、死者は1人にとどまっている。一方で武漢市は、感染者1万6902人に対し死者681人だ。
鐘南山氏は2月9日までの中国メディアの取材に対し、「新型肺炎の致死率は、季節性インフルエンザよりは高いが、SARSよりはかなり低い」とも述べている。
(ライター・浦上早苗)