清志郎ふうの「人懐こさ」「ユーモア」
猫のような距離感、というと猫好きの方にはお分かり頂けるかもしれない。
アルバムの曲は全14曲。歌詞のある12曲の中で5曲に「猫」が登場する。猫好きの彼の生活感がそのまま歌になっているようなアルバムは、ロック系シンガーソングライターの中でも特異と言って良さそうだ。
彼の生れは1966年。ビートルズ来日の直前に生まれている。93年のデビュー曲が「僕の見たビートルズはTVの中」だったように、ビートルズをテーマにした数多くの曲の中でも等身大の距離感が新鮮だった。
自分の身の回りのことを歌う。70年代風に言えば「四畳半的シンガーソングライター」でありつつ、学生時代はヘビメタのバンドをやっていたというロック少年。その一方でギターやドラム、ベース、キーボードなどの楽器を弾いて多重録音するという音楽オタクでもある。初めてチャート一位になった前作「Toys Blood Music」は、これまで使ってこなかった新しい機材を使った全編打ち込みの意欲的なアルバムだった。「202020」は、その対極でありそれでいてかつてないほどに「素」の彼が感じられる一枚となった。
職業作家には書けない世界というのがあるのだと思う。作品としての完成度。誰が歌っても成り立つという客観性がそうした人たちの世界だとしたら、斉藤和義は「等身大の実感」が持ち味ということになる。Mr.Childrenの桜井和寿がカバーすることで火がついた97年の「歌うたいのバラッド」は、ギターばかりに関心が行ってしまい歌がおろそかになっている自分への戒めとして書いたという曲だ。彼は、やはりインタビューの中で「今回のアルバムは気合を入れて、にしたくなかった」と言った。
そういう「身の回り」的距離感のアーティストで思い浮かぶのが忌野清志郎だろう。70年代の代表曲「僕の好きな先生」がそうだったように、個人的でありつつ誰にでも思い当たる親近感のあるロック。斉藤和義は、誰よりも忌野清志郎をリスペクトするシンガーソングライターでもある。2011年の東日本大震災の後に発売されたアルバム「45STONES」の中の「雨宿り」は、天国に逝ってしまった清志郎に向けた歌のようにも聞こえた。「202020」には、清志郎が最後まで失わなかった「人懐こさ」や「ユーモア」を受け継いだアルバムと言って良さそうだ。
デビュー27年目で20枚のオリジナルアルバム。他にも様々なユニットやプロジェクトにも参加、CDも発売している。去年は、奥田民生、トータス松本、YO-KING、浜崎貴司らとともに寺岡呼人プロデュースのカーリングシトーンズにも参加、アルバムも発売した。
2月29日からツアー「KAZUYOHSI SAITO LIVE TOUR 2020"202020"」が始まる。全52公演。「ツアーをやっている時が一番健康」という生粋のライブアーティスト。「大器晩成」は今が旬であることは言うまでもない。
(タケ)