しみこんだ時間
温泉ライターの岩本さんは秘湯を得意とし、ウェブマガジン「ひなびた温泉研究所=ひな研」を、所長として運営している。
「ヤマケイ」の読者にとって、温泉は登山の疲れを癒すオアシスにあたるのかもしれない。だから山と温泉は相性がいいように思えるが、そこはベテランの岩本さん、代表的な山岳雑誌に参加するにあたり「ここらへんの感覚、登山をされるみなさんであればわかるのでは...」と、奥ゆかしく「仁義」を切っている。フリーの駆け出しライターとして勉強になった。
岩本さんの「ひなび主義」は、特集Q&Aにあるこんなくだりが簡潔に語っている。
「ひなびた温泉の魅力は、時間がしみこんでいるかのような味わいにある。建物のたたずまいや、浴室の柱や、壁や、床、湯船、桶、湯そのものにも、長い時間がしみこんでいるような。そういう〈しみこんでいる感〉は...人工的につくれるものでもない」
そんな「しみこんだ時間」のぬくもりに囲まれ、入浴者の体は「本来の息吹」のようなものを取り戻していくと。俗化せず、地元民に支えられて歳月を超えてきた秘湯たち。たまった濁り水を捨てに、寒さが残るうちに「ひなびて」みるか。
冨永 格