「ぶっ飛んだ」表現の詩に魅力を感じた
本質的に外国人であったアポリネール・・・・絵画におけるピカソも、パリで活躍しましたがスペイン人でした・・・と対照的に、プーランクはフランスの作曲家には珍しい、「パリのど真ん中の出身」でした。パリは、国外からやってきた人たちによって革新性が生まれ、さらにそれがパリの活力になる・・というパターンがあるのですが、生まれも育ちもパリのプーランクは、若いころから「異邦人」アポリネールの詩、いわば「ぶっ飛んだ」表現の詩に魅力を感じ、曲をつけてゆきます。
「ホテル」は、アポリネールの詩に曲を付けた「月並み」という歌曲集の中の1曲です。
鳥かごの形をしたホテルの一室で、主人公がリラックスしているだけ・・・歌詞によると、「太陽が腕を突っ込んでくる」とありますから、直射日光でその部屋は暑い様子です。そして、その太陽の熱でタバコに火をつけたい、仕事なんてしたくない・・・という、ほんとうにシンプルかつ「だらっと」した内容の歌詞なのです。まあ、エアコンがない時代の、日光が降り注ぐ部屋の暑さは、かなりなものかもしれません。それを一編の詩にしてしまうアポリネールもアポリネールなら、そこに、大げさなぐらいゆったりと、味わいが深く、どこかけだるさを感じる和音を重ねてゆくプーランクの腕前も見事です。
演奏時間わずか2分に満たない歌曲ですが、聞いた後に、なんとも味わい深い雰囲気をじんわりと残してくれる不思議な魅力に満ちた1曲です。
「月並み」の中には、「パリへの旅」という、旅へのあこがれを歌い上げた曲や、さらに人生を感じさせてしまう「すすり泣き」といった曲もあるのですが、彼の歌曲はどれもが魅力的なため、また機会を改めてそれぞれご紹介したいと思います。
本田聖嗣