プライマリ・ケアとは何か、なぜ必要なのか、我が国に導入できるのか

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「欧州型」導入における課題

   我が国でもプライマリ・ケアを導入する方向での取り組みは始められている。2017年から「総合診療専門医」というプライマリ・ケアの専門家の育成が始められている。一定規模の病院に紹介状なしで受診する際に追加負担を求める方向での見直しが進められている。

   欧州型のプライマリ・ケアを我が国で整備する際にどのような課題があるのだろうか。はじめに供給側における課題をみてみる。プライマリ・ケアを整備に際しては、開業医がその役割を担っていくものと想定されるが、我が国の開業医の多くは専門医として訓練を受け、病院での勤務を経て開業に至った者である。Common diseaseに的確に対応できるという意味での専門性の蓄積がなされているわけではない。我が国の外来での診療は現場の医師に任せきりで、標準的な医療行為を定めたガイドラインの整備が十分ではない。ゲート・キーパーとしての機能を持たせることは、現場の医師に相当な責任を課すものであるから、必要な能力の構築やこれをサポートするガイドラインの整備は重要な課題である。

   プライマリ・ケアに従事する医師への支払い制度の整備も発展途上である。我が国でもすでに「生活習慣病管理料」「地域包括診察料」が存在している。しかしながら、common diseaseに対応し、登録された住民の健康に日常的に責任を持つという意味でのプライマリ・ケアを実現するには、それに見合った本格的な支払い制度の設計と実施が必要であろう。我が国では医療サービスの提供の大きな部分が民間の主体によっておこなわれている。民間を含めた医療従事者が持続可能なものとして医療サービスを提供できるよう、支払い制度を構築していく必要があるが、同時に医療サービスが公費により支えられている以上、その報酬は提供する医療サービスの価値に見合ったものとすることが前提となる。医師主導で医学上の根拠の乏しい治療がおこなわれるような支払制度は改める必要がある。いたずらに高額医療機器を導入することで患者を集めることを抑制する観点から、高額医療機器による検査を包括払いの対象に含めることも一案である。

   需要、すなわち患者サイドからみた課題としては、フリーアクセスの制限に関わる論点がある。長い間、自由に医療機関を選び、時に複数の医療機関の間を渡り歩いてきた患者からみれば、フリーアクセスの制限は医療サービスの全般的低下と受け止められる恐れがある。フリーアクセスの制限は、医療サービスを十分に受けられなくなるのではないかとの不安を国民の間に惹起する恐れがある。しかしながら、フリーアクセスを認めている我が国の医療供給制度は例外的存在であり、希少な医療資源の有効活用の観点からも、ゲート・キーパー機能を高めていくことが望まれることは先述した通りである。予想される不安に応えるためには、供給側において、医師の能力向上、ガイドラインの整備等により医療の質の担保に取り組み、新しい医療供給体制への国民の信頼を高めていくことが重要である。供給側の対応が一挙にできるものではないことを踏まえると、供給側の体制整備と歩調をあわせて着実に制度見直しを進めていく必要がある。

   本評を通じて、データの活用についてはあまり触れることができなかった。産業医科大学の松田晋哉教授の「医療保険・介護保険レセプトと特定検診データの連結分析システムの開発」(「地域医療」)、千葉大学の近藤克則教授の「保険・医療・介護における効果・質・格差の評価」(「地域医療」)、広島大学の森山美知子教授による「Population Health Managementに基づいた地域包括ケアシステムの展開」(「報告書」)からは得るところが大きかった。

経済官庁 Repugnant Conclusion

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