日本の音楽シーンは「東京五輪後」の動向に注目【2020年大予想(4)】

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   音楽ライターの柴那典(とものり)さん。

   著書「ヒットの崩壊」「渋谷音楽図鑑」で知られ、数多くの人気アーティストやバンドの取材に携わってきた人物だ。

   今年は東京オリンピック・パラリンピックの開催や人気アイドルグループ・嵐の活動休止を控え、音楽業界でも大きな動きが予想される。J-CASTトレンドでは柴さんに、2010年代の音楽シーンの振り返ってもらうとともに、2020年のヒット予想を聞いた。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・佐藤庄之介)

  • インタビューに答える柴さん
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ヒットの指標は「ミリオン」から「ビリオン」へ

―――2020年のヒット予想の前に、日本の音楽シーンとヒット曲を考えるうえで2010年代とはどんな時代だったのか、ご意見を聞かせてください。

 「ヒットの基準」が変わった時代と言えます。2010年代前半まで、「日本では100万枚、海外では1000万枚」などCDの売り上げが基準になり、「枚」という単位でヒットの度合いが測られていました。それが、ここ数年はサブスクリプション(定額配信)のストリーミングサービスや動画サイトの普及で、作品の再生回数を表す「回」という単位に変わってきたのです。
1990年代はCDの「ミリオンヒット」が、ヒットの分かりやすいキーワードでした。一方、2018年はあいみょんの「マリーゴールド」、19年はOfficial髭男dismの「Pretender」がヒットしましたが、いずれの作品もストリーミングでの再生回数が1億回を超えています。ヒットの指標は「ミリオン(100万)ヒット」から「ビリオン(10億)ヒット」に変わったのです。

―――19年12月、米津玄師の楽曲「Lemon」(2018年)のユーチューブ(YouTube)での再生回数が5億回を超え、話題になりました。YouTubeの存在は10年代の音楽シーンとヒット曲にどのような影響を与えたのでしょうか。

 YouTubeが音楽において大きな役割と存在感を持ち始めたというのは、10年代を通じた大きなトピックです。背景にあるのは、00年代後半から、アーティストのミュージックビデオが無許諾ではなく、公式チャンネルを通じてアップロードされるようになったこと。「コンテンツID」という仕組みも導入され、第三者が楽曲を使ったビデオを投稿した際に、音源の著作権者がブロックするかビデオの再生回数に応じて収益化するかを選択できるようになったことです。これにより、AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」(2013年)など、一般人がダンス動画を投稿する「踊ってみた」系のバイラルヒット(ネット上で拡散するようなヒット)が生まれるようになりました。

―――2016年にはスウェーデンのストリーミングサービス「スポティファイ(Spotify)」が日本に上陸しました。ストリーミングサービスは日本のリスナーに受け入れられたのでしょうか。

 2016年頃はストリーミングに音源を提供している国内の人気アーティストが少なく、利用者は海外のポップミュージックを追っている層が中心だったと思います。風向きが変わったと感じたのは2018年5月。Mr.Childrenのストリーミング配信解禁です。ミスチルだけでなく、ここ1~2年で宇多田ヒカルや嵐、L'Arc~en~Cielやサザンオールスターズなど国内の大物アーティストがストリーミングに乗り出す例が増え、J-POP全般を聴く人たちにもサービスが普及し始めたと言えます。そしてここ2~3年は、DAOKO×米津玄師の「打上花火」(17年)、あいみょんの「マリーゴールド」(18年)、Official髭男dismの「Pretender」(19年)のように、サビが流れれば、ある程度「ああ、この曲ね」とイメージができる曲がストリーミングでヒットしました。

嵐「活動休止イヤー」の活躍を占う

―――2020年はオリンピックイヤーです。過去には、アテネ大会の「栄光の架橋」(ゆず)、リオデジャネイロ大会の「Hero」(安室奈美恵)など、テレビ局の番組テーマ曲がヒットした例が多いですが、東京五輪に関連したヒット曲は誕生するでしょうか。

 おそらく生まれるでしょう。ただ今は、番組テーマ曲に誰が起用されるか決まっていませんし、ふたを開けてみないと分からないことが多い。
現時点(取材時)で確実に決まっていることで言えるのは、五輪の開会式・閉会式に参画する椎名林檎を中心としたクリエイティブチームが、日本のポップミュージックカルチャーをどういう形で世界に示してくれるのか、という点には期待しています。

―――年末には嵐が活動休止を迎えます。最終年はどんな活躍をするでしょうか。

 まずは「NHK2020ソング」として紅白歌合戦で初披露される、米津玄師作詞・作曲による新曲「カイト」は大きな話題を呼ぶと思います。加えて、海外における存在感をどう発揮し、人気と支持をどれだけ得られるか期待しています。19年11月に発表された楽曲「Turning up」には、「世界中にJ-POPを広めよう」というメッセージが込められていました。「J-POP代表」としての嵐が、世界に対してどれだけ影響を広めていけるのか。20年のトピックの一つになる気がします。

―――ほかに、2020年で注目される音楽シーンの動きはありますか。

 五輪後の動きの方が重要だと思っています。五輪までは、ある意味でテレビ中心のこれまでの時代のムードが引きずられるからです。起こるべきは「世代交代」です。海外では、前年まで全く無名だったミュージシャンが、新しい価値観を示し、一挙にシーンの流れを変える事態が2019年に起きました。その象徴がビリー・アイリッシュ(18歳の米女性歌手。音楽共有サイトに投稿した楽曲が注目を浴び、世界的スターになった)です。彼女が登場した背景には、メディアの変化に伴い音楽の聴かれ方が変わったことで、これまでのマーケティングやプロモーションが通用しなくなった点にあります。
日本においても、これまでの常識や「ヒットの法則」を覆すアーティストが出てくることに期待しています。

柴那典(しば・とものり)
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」「ミュージック・マガジン」「婦人公論」など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにてダイノジ・大谷ノブ彦との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。
ブログ「日々の音色とことば」http://shiba710.hateblo.jp/ Twitter:@shiba710

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