2020(令和2)年が幕を開けた。J-CASTトレンドでは、年初にあたり各界の識者に今年の「トレンド」を占ってもらった。
初回は、東京五輪とマスコミ。地元開催だけに、テレビを中心に報道が過熱しそうだ。上智大学新聞学科教授の碓井広義氏は、マスコミに「メディアの本分は何か」を問いかける。(聞き手はJ-CASTトレンド編集部・荻 仁)
選手を「キャラ化」、視聴者が飽きるまで消費し尽くす
――従来の五輪とマスコミ、特にテレビ報道をどう見ていますか。
碓井 日本のテレビは「五輪バラエティー」になっています。それはなぜか、考えてみましょう。
まず、五輪はスポーツ中継の王様で、テレビにとっては強いコンテンツです。同時に、放映権をはじめ巨額のマネーが動くメディアイベントでもあります。
競技や試合そのものはどこが放送しても同じ。そこでテレビ局は、「どうパッケージにして見せるか」に走る。現地に大勢のスタッフを送り込み、人気芸能人を投入して視聴者を集めたい。視聴率さえ取れれば「何でもあり」です。しかし、「金メダル至上主義」をあおったり、選手を「キャラ化」して笑わせようとしたりする姿勢は感心しません。
――昨年のラグビーワールドカップ(W杯)で大活躍した日本代表の稲垣啓太選手が「笑わない男」として、テレビ出演やイベントのたびに「今日は笑わないんですか」と言われ続けました。本人が楽しんでいるならよいのですが......。
碓井 (個性が強い選手といった)視聴者の関心を引く材料があると、マスコミにはありがたい。そうなれば、視聴者が飽きるまでとことん選手を消費し尽くす。アスリートを都合よく利用し、必要がなくなったと判断すればそっぽを向く。
――視聴者からはしばしば、こうした報道に批判が出ていますが、テレビ局はどう受け止めているのでしょうか。
碓井 五輪のような大きな商機を前にすれば、批判の声を聞いてもやめられません。芸能人の起用やバラエティー化は既に構造的なものとして定着し、東京五輪でも同じ手法が続くと思います。視聴率が稼げれば「テレビをご覧の皆さんだって、楽しんだでしょ」というわけです。
しかし実際は、スポーツそのものを見たい視聴者に対するテレビ局側の間違ったサービス精神です。両者の間のギャップが埋まらないまま、東京五輪では「お祭り感覚」の放送が連日続くのか、と思ってしまいます。
ただ、TBSが安住紳一郎アナウンサーを東京五輪の総合司会に据えたのを私は評価しています。タレント起用でなく、五輪バラエティーでなくきちんと報道しようとしている局の姿勢がうかがえます。