「現場」の問題意識を学問・実務に生かす難しさ

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学問、人間の進歩に期待しているが...

   ケインズ経済学の碩学、故大瀧雅之・東京大学社会科学研究所教授の著作については、このコラムでも何度か紹介してきた。本年6月のコラムでは、生前の最後の日本語の本となった「アカデミックナビ経済学」を紹介した。そこでは、大瀧氏は、政府・日本銀行のマネーの供給(貨幣供給量)が経済の潜在的な生産力をあまりに大きく上回ってしまうと、市民に貨幣をもっていても財・サービスに代えられないのではないかという疑念を生じさせかねず、こうした疑念が生まれ、流布されると、貨幣への厚い信頼がゆらぎ、大変なインフレーションが起きる危険性が高いと懸念していた。そして、「高率のインフレーション」から身を守るためには、社会保障費をはじめとした財政の歳出を抑制すること、人口減少に備え公債(国債)を減らすこと、そのためにはかなりの増税を受け入れなければならないこと、としていた。

   ブレイディ氏も参画した本書での処方箋(赤字国債を発行して財政を拡張し、金融緩和のため、財源の赤字国債は日銀が引き受ける)が、この碩学の指摘と真っ向から対立することを残念に思う。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でみせる「現場」での鋭い認識が、マクロ(巨視的)にうまく発展するのはなかなか難しいことをあらためて痛感した。この論点は、日本を代表する政治学者の丸山真男が、「車中の時局談義」(1948年)(『戦中と戦後の間』 みすず書房)でも指摘していた我々の課題である。

   評者としては、学問の進歩、人間の進歩にある程度期待をしているが、このような「現場」の問題意識の素晴らしさを学問や実務にきちんと生かし切れないことのもどかしさを令和の時代には少しでも解消できればと思う。

経済官庁 AK

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