初めは散々の評判、次第に評価高まる
ウォルトンが作曲した「戴冠行進曲 王冠」は、初演当初の評判はあまり良くありませんでした。彼の本来のスタイルではない、と批判されたのです。確かに、曲の構成が、第一次世界大戦前の英国を代表する作曲家、エドワード・エルガーの代表作にして、「英国の第2の国歌」と言われる「行進曲 威風堂々 第1番」にそっくりで、それをそっくり真似したのだ、と攻撃されたのです。皮肉を込めてウォルトンの作品も「威風堂々 第6番」と呼ばれたりもしました。エルガーは「威風堂々」を第5番まで完成させて亡くなっていたからです。
しかし、ウォルトンの、風格があり堂々として、それでいてどこかのびのびとしたこの曲は、次第に評価されるようになり、ジョージ6世の娘、現在の英国女王エリザベス2世が即位するときにも、その戴冠式のために新たに作曲した「行進曲 宝玉と勺杖」とともに、再び演奏されることとなったのです。その後も、たとえば、ウィリアム王子とキャサリン王妃の婚礼の時にも、演奏されました。ウォルトンの「行進曲 王冠」はこれからも英国王室の行事に密接に結びついて、人々に愛されて行くことになるでしょう。
ところで、ジョージ6世は、インドが独立したため、インドの王位を失い、「現在の連合王国」の最初の王となった人です。2019年は、最後の最後に与党保守党が総選挙で大勝し、いよいよ2020年には3年半ももめたEU(欧州連合)離脱、通称「ブレグジット」が現実味を帯びてきましたが、これはひょっとして、北アイルランドやスコットランドが独立するきっかけ・・・「連合王国解体」の序章となった・・などと後世の歴史家に言われてしまう事態になる可能性がないとも言い切れなくなってきました。
来年以降のことはわかりませんが、音楽も、歴史も、「事実は小説(音楽だけに小節?)より奇なり」という未来が待っているのかもしれません。
本田聖嗣