アルバムだから表現できること
デビュー10周年を超え、2020年には40代になろうという年齢ならではのラブソング。先行シングルになった「Raspberry Lover」は、"その粒が毒入りだって構わない"と歌う危険な恋の歌だ。シンセサイザーが遠い記憶を呼び覚ますような「LOST」やアルバムの中で一番古い曲だという「花」は、若い頃には感じようもない喪失感が歌われている。
世の中の流行トレンドに対して「踊らされたくない」と歌う「アースコレクション」は最も冒険的な一曲だ。星座の名前を織り込んだ「9inch Space Ship」は、9インチのスニーカーで宇宙へ歩いてゆく、という男の子のファンタジー、恋人同士のセックスを連想させる「漂流」は、官能的な内容をタイトなリズムがクールに相対化してゆく。どの曲も精密な設計図に基づいていることが伝わってくる。
なぜ、この曲順なのか。
アルバムならではの締めくくりが最後の曲「Rainsongs」だった。彼は番組の中で「2019年の自分がどんな風に暮らしているか、曲のスケールを崩さずに書ければと思った。親の世代から色んなものをもらってきて、自分が次の世代に何を手渡して行けるかを考えるようになってます」と言った。
「Rainsongs」には、こんな歌詞があった。
"もう子供たちの未来を かつての子供たちが奪わぬよう ただ渡せたらと思っている 僕が受け取ったもの 同じように 君にも"
青年が大人になる。
その自覚は、"次世代"を意識したことで始まるのだと思う。"もらう側"から"与える"側へ。"受け止める側"から"渡す側"へ。それも「コペルニクス」的転換ということになるのかもしれない。
人は変わる、変わることで成長してゆく。
アルバムだからこそ表現できる。
そんな劇的な一枚が誕生した。
(タケ)