動物には興味なし? 前田エマさんと生き物たち、その絶妙な距離感

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勇気ある書き出し

   まず書き出しを読んで、なかなか勇気があるなと思った。冒頭から「動物に興味がない」と言われては、相当数いるはずのワンコ党やニャンコ党の読者は面白くなかろう。そこで読むのをやめてしまうかもしれない。

   業界での立ち位置が定まった年配の書き手ならともかく、筆者は27歳。ライターで食べていくつもりなら、無駄に「アンチ」は増やしたくない。だが、八方美人的に、当たり障りのない話や表現を連ねては固定ファンがつかない。そこらの案配が難しいわけだが、この筆者はリスクをとって正直に書く、という王道を行っている。

   通読してみれば、生き物との縁がユーモラスに描かれ、動物好きにも不快なところはなさそうだ。小学生時代の世話係で懲りたのか、のめり込むことがない前田さん。とはいえ、長く生活を共にしていれば情が移るというペット愛の本質は理解し、実際に泣いた話を吐露している。動物に興味がないと公言する筆者だからこそ、その涙には説得力が宿るのかもしれない。作らず飾らず、ナチュラルな筆致は強い。

   エッセイ、コラムともに、筆者の個人的な体験や嗜好に触れる時は、正直と自然体に徹することだ。度を超した自慢や美化、行き過ぎた自虐、いずれも読者を白けさせる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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