意外性とウイットに富んだ二日間
細野晴臣は、祖父が沈没した豪華客船「タイタニック号」の唯一の生き残り日本人乗客という家に生まれている。物心ついた時から家にはジャズのSP盤が流れていたという環境は、その頃の音楽だけでなく古き良きアメリカへの愛着としても表れている。映画「NO SMOKING」が紹介していた海外の客席の反応は、自分たちも見失ってしまった音楽のルーツが時を超え日本やアジアを経由して帰って来たという発見なのだろうと思った。映画にはロンドン公演に海外で人気のあるコーネリアスの小山田圭吾に高橋幸宏も参加、そこに坂本龍一が飛び入りで加わってYMOが再現される模様や、はっぴいえんどのロサンゼルス録音のアルバムに加わっていたアメリカ人プロデューサー、ヴァン・ダイク・パークスと再会する様子も収められていた。
彼の功績はまだある。鈴木茂(G)、林立夫(D)、松任谷正隆(KEY)らと組んだセッション・ミュージシャン集団、キャラメル・ママはその後ティン・パン・アレーと名前を変え、小坂忠や、荒井由実、矢野顕子、大貫妙子、南沙織、アグネスチャンらのレコーディングに参加、それまで顧みられることの少なかった演奏のクオリティーを飛躍的に向上させた。はっぴいえんどがそうだったように、"歌モノ"のアルバムで演奏が評価されるようになったのは間違いなく彼ら以降だろう。
そうした50年間の活動のしめくくりとなったのが11月30日と12月1日の東京国際フォーラム。それは意外性とウイットに富んだ二日間だった。
二日間公演の内容が違う、というのは珍しくない。ただ、それは二日とも足を運ぶという人が見てもそれぞれに楽しめるように選曲を変えるという程度なのが普通だ。まさか、ここまで中身が違うとは思わなかった、というのが正直な感想だった。
そういう意味では一日目の「細野晴臣50周年記念特別公演」は、オーソドックスなコンサートらしいコンサートだった。海外公演も共にしているバンド、高田漣(G)、伊賀航(B)、伊藤大地(D)、野村卓史(KEY)らをバックにしたライブ。映画「銀河鉄道の夜」の「エンドテーマ」を皮切りに、ジャズやカントリー、ブギやブルースなどのルーツミュージックを取り入れつつ彼のオリジナルも歌う大人のコンサートだった。