パリ・オペラ座の支配人の依頼によるバレエ音楽
印象派、と呼ばれる斬新な響きを作ったドビュッシーがすぐ上の世代で、一方ベルギーからフランスの地にやってきて「フランキスト」と呼ばれる熱心な弟子たちとともに「フランク一派」というどちらかというとドイツ的、構造的な音楽を評価する一派のヴァンサン=ダンディに師事しているルーセルは、そのどちらからも、「同時代的」影響を受けています。
しかし、彼の作品をよく聴くと、幼い頃から「独立独歩」の気風が強かったルーセルの音楽は、本質的には誰の作品にも似ていないオリジナリティーに溢れ、同時に海軍時代に実際に目にした「遠い異文化」のエキゾチックな香りも感じられる、魅力的な作品が多くなっています。
ギリシャ神話に題材をとった「バッカスとアリアーヌ」は、パリ・オペラ座の支配人の依頼で書かれたバレエ音楽です。残念ながらバレエの公演はあまり評判となりませんでしたが、曲を抜粋し純粋なオーケストラ作品とした、「バッカスとアリアーヌ第1組曲」、「同第2組」は、その後じわじわと人気が高まり、現在ではルーセルの代表作品と言われるようになったのです。近代的なハーモニー、華やかな金管のアンサンブル、対象的なフルートソロの官能的なメロディー等々、フランス近代音楽華やかなりし頃の特徴と伝統を備え、同時にどこか気品に溢れたその毅然とした響きは、音楽を忘れられなかった元海軍軍人ルーセルの特徴を最も表している曲と言って良いような気がします。
本田聖嗣