「人」と「人以外の生物」という区分を考えると
その上で人間社会への哲学的考察に戻る。人間社会では「人」と「物」を別に括ることで、「人」に括られた側での平等、対等性が保障されている。だからこそ「人」の間の不平等が問題になるのだが、二分法を「人」と「物」ではなく「生物」と「無生物」とし、「生物」の中で「人」と「人以外の生物」という区分を考えるとした場合、いわゆる「自然」とは別に、AIが生息する自然生態系のような世界が新たに登場し、そこに相当の知性の存在を見いだす時、人と人との間での区別や道徳的序列への抵抗がさらに少なくなってしまう可能性を示唆する(その帰結は本書をご覧いただきたい)。
仮定を積み重ねた論理であり、近い将来での、それこそ実現の「可能性」について現時点の判断は難しい。とはいえ、「人」「物」二分法の概念を持ち出し、古典古代ギリシャのアリストテレス的構図に遡って論点を抉り出した点に、著者の社会哲学に関する深い研究と思索があり、読者の思考を揺さぶる根拠があると感じた。著者の考察は、今も深層学習を続けるAIに対峙する我々が参照すべき必要な知的営為であると考える。読者の頭には、AIについての考察を契機に、人の本質は何か、人と人以外の生物を分けるものは何か、なぜ人は人であることで尊重されるのか、等々の哲学的問いが巡るだろう。
厚生労働省 ミョウガ