ボクシング中に暗算 土屋賢二さんが考えた複合競技の「非道」ぶり

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笑わせるほうが難しい

   ユーモア随筆は、実のところ知的な創作活動である。私の経験と実感でも、文だけでは、泣かせるより笑わせるほうが難しい。土屋さんのように、この作まで1121回、毎度のナンセンスで読者を満足させてきた書き手は、もはやフラフラの出がらし状態かと思うのだが、不死身の書き手というのは確かにいる。汲めども尽きぬ冗談の泉である。

   長寿連載のコツは、読者との「お約束」をいくつか作り上げることだろう。土屋さんの場合、その一つが奥様の登場である。今回も「ふだん暴力は絶対反対と主張する人が、スポーツでは、何も悪いことをしていない相手を『コテンパンにやっつけろ』と叫ぶ姿を、夫として横で見ていると、暴力を好む本性が透けて見えて慄然とする」という具合だ。

   そして最新の話題をまめに取り上げること。今回はマラソンの札幌行きとスポーツの不条理、である。取り上げただけではなく、「すべて純粋な絶対善」と思われがちなスポーツを、あえて天邪鬼に料理する。斜に構えたところが常連読者にはたまらない。

   さらには、哲学者という堅い職業の効果である。筆致との落差を生じさせる設定として、大いに成功していると感心する...ん? これはホンモノか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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