日本が見習いたい英国由来のナショナル・トラスト

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■『図説 英国ナショナル・トラスト』(著・小野まり 河出書房新社)

   ラグビーワールドカップは、大成功のうちに幕を閉じた。長年の一ラグビーファンとしては、多くの人びとがラグビーの魅力を大いに楽しんだことはとてもうれしい。

   2019年11月3日付西日本新聞1面で、ラグビー経験者の大窪正一記者は、「多様性結ぶ『和の心』に共感 南アV 熱狂に幕」と題して、「排他的な空気が漂い始めた社会で、絆やつながりといった日本人が大切にしてきた価値観を見つめ直し、国籍を超えて分かり合える可能性を感じ取ったからこそ共感が広がった」と指摘する。ラグビーが、英国発祥であったことが、国籍主義とは違った、多様性のあるチーム構成を可能とした。最近の英国政治の混迷は目に余るが、日本にとっては明治維新以来、模範を求めてきた国が英国であることは間違いない。

「ハッピーライフを送るための必須アイテム」

   英国由来で、もう1つ是非とも見習いたいものが、ナショナル・トラストである。1895年に3人の市民によって始まった。評者は、1992年にナショナル・トラストが多くの不動産を所有してその美しい景観を保全していて、ピーターラビットのふるさとでもある湖水地方をめぐった。その際に購入した3.95ポンドの1992年版のナショナル・トラストのハンドブックがいまでも良い思い出とともに手元にある。

   同じ年(1992年)に三省堂から出されたのが、日本のナショナル・トラスト運動に大きな貢献をした元朝日新聞記者の木原啓吉氏の「ナショナル・トラスト」であった。木原氏は、「無秩序な都市化や野放図な工業化の波によって破壊されるおそれのある貴重な自然や歴史的環境を守るために、広く国民から寄付金を募って土地や建造物を買い取り、あるいは寄贈を受け、さらには所有者との間の保存契約を結ぶなどして、保存、管理、公開をする活動をいう」と定義している。

   英国のナショナル・トラストのいまを知るには、ピーターラビットの生みの親のビアトリクス・ポター生誕150周年を記念して2016年に刊行された、ナショナル・トラストサポートセンター代表・小野まり氏の『図説 英国ナショナル・トラスト』が最近の本としては手ごろである。階級社会がいまも強固に生きる英国で、「大多数の中流~労働者階級の人々がハッピーライフを送るための必須アイテムのひとつとしてあげているのが、このナショナル・トラストなのです」という指摘にはあらためて注目したい。2015年の会員数が424万人にのぼるゆえんだ。小野氏在住の英国の田舎風景に出会える場所、コッツウォルズ地方にもナショナル・トラストが保有する不動産が点在し、ロンドン郊外のストーンヘンジの景観保全にもナショナル・トラストが大きな役割を果たしていることも解説。観光立国・英国の側面を支えているのが、ナショナル・トラストとそれを支える地元に誇りを持つ地域住民であることがよくわかる。

日本人にできないはずはない

   英国のナショナル・トラストを参考に、1960年代に鎌倉で日本初のナショナル・トラストが始まって以来、各地でトラスト活動が芽吹き、広がってきているが、まだまだ、英国のナショナル・トラストはかなり先をいく先進団体だ。日本では、2019年12月21日に、第37回ナショナル・トラスト全国大会が開催される。そのなかでは、「霧多布湿原を未来の子供たちに引き継ぐために」と題して、認定NPO法人「霧多布湿原ナショナルトラスト」理事長・小川浩子氏が登壇する。花の湿原と呼ばれ、ラムサール条約の登録湿地で北海道遺産にも選定されている霧多布湿原は、その約3分の1にあたる1200ヘクタール(ha)が民有地となっていることから、当団体により湿原の買い取りが続けられ、現在、956haが守られている。湿原の状況や、ファンを増やす取り組み、企業との連携などの近況について報告がされる予定だ。「週刊エコノミスト」11月26日号の「問答有用」(ワイドインタビュー)には、前理事長の三膳時子氏が登場し、「花のじゅうたんを眺めて生きられる幸せ」を生き生きと語っている。

   小野氏同様、評者も、「イギリス人にできて、日本人にできないはずはない。むしろ、日本ならではの市民による環境保護運動は、今後かならず大きな輪となり、広がっていくのではないか」と確信している。

経済官庁 AK

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