心地よい湯で汗を流し、酒とつまみを好き好きに食べながら「銭湯」を語り尽くす――。
東京都大田区の「蒲田温泉」で2019年11月15日、「蒲田銭湯ナイト2」が開かれた。「テルマエ・ロマエ」で知られる漫画家・ヤマザキマリさん、多くのデザイナーズ銭湯やスーパー銭湯の設計にあたる建築家・今井健太郎さんら銭湯にまつわる著名人による、銭湯ファンのためのカジュアルトークライブだ。
「私は1日にお風呂に3回入っています」
「蒲田銭湯ナイト」は、大田区に縁のあるヒト・モノ・コトをテーマに、専門家とともに語り合う「蒲田カルチャートーク」の一企画として開催されており、18年に第1回が行われた。今回は前述の2人のほか、銭湯の風呂釜製造会社と、タイル施工会社の代表取締役たちがゲストとして招かれ、「風呂がどのようにして作られ、形になるのか」を職人の視点で語り、ヤマザキさんが時折鋭い質問を投げかけていく形式になった。
会場の蒲田温泉2階宴会場に足を踏み入れると、既に数十名の参加者たちがビールや枝豆を手にスタンバイし、座敷でくつろいでいた。ひと風呂浴びてから来たのか、タオルを首にかけてぼんやりしている人も。独特の「ユルい」雰囲気のままスタートしたトークライブ冒頭ヤマザキさんが、
「私は1日にお風呂に3回入っています」
と明かし、こう続けた。
「仕事中に入って心身をリセットしたり、安眠のために寝る前に入ったり...。とにかくシャワーではだめなんですね。粒子をかぶるのではなく、とにかくお湯との接触面積を増やして疲れを癒したい。お風呂で死ねたら本望ですね(笑)」
風呂愛の大爆発に、会場は笑いに包まれた。
まきとガス、沸かし方で湯は変わる?
約2時間半のイベントの中で、まきを使って風呂をたく銭湯には欠かせない釜のトークが交わされた。川瀬鉄工所(横浜市)代表取締役・川瀬純一氏によると、釜とは内側の「釜」と外側の「サヤ」で構成されており、その間に水が通る管があるという。7~10年ほどで内側の釜が腐食などで劣化するため、内側だけを取り替える工事が多い。
ただ、内側だけでも重さは1トン半あるため、作業には大変な苦労が伴う。MCが「ガスで沸かす釜もありますが、『まきでたく釜が使えなくなったら廃業する』とこだわりをもって営業している銭湯も多いようです」と紹介すると、ヤマザキさんが川瀬さんらにこんな質問を投げかけた。
「まきで沸かした湯とガスで沸かした湯って、何かが画期的に違いますか?」
すると川瀬氏は「ぼくはあまり(違いを)感じないですね...」と苦笑混じりにぽつり。今井さんがすかさず「ぼくはやっぱり、まきで沸かした湯はやわらかいんじゃないかなと思いますよ!(笑)」とフォローを入れたが、ヤマザキさんが引き出した川瀬さんの一言に、会場は一瞬にして沸き返っていた。