電車の忘れ傘 芳賀繁さんが伝授する三つの対策と「余裕」の大切さ

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   プレジデント(11月15日号)の「職場の最新心理学」で、交通心理学者の芳賀繁さん(立教大学名誉教授)が、電車で傘を忘れてしまう理由と予防策をわかりやすく説いている。勤め人が遭遇する様々な状況について、各分野の専門家がアドバイスする連載。今年は多雨だったから、忘れ傘は通勤・通学者にも関心の高いテーマだろう。

   電車内の忘れ物で圧倒的に多いのは雨傘、それも安いビニール傘らしい。失くしても大したことはない、というのが忘れやすい理由である。まことに分かりやすい。

「忘れ物は、予定の記憶(展望的記憶)に関係しています。電車に乗って傘を手すりに掛けたら、『降りる前に手すりに掛けた傘を手に取ろう』と予定しますよね。でも、乗車中ずっと傘のことを考え続けるわけにはいかず、いったん意識からなくします」

   降車する段になって「予定」を思い出す。さもないと傘が放置される。

「忘れたのではなくて、『思い出さなければいけない予定を、思い出し損なった』というのが正確で、あらゆる忘れ物をする理由はこれで説明がつきます」

   思い出すのを忘れた結果が、傘との別離というわけだ。

   芳賀さんはここで、「電車内に傘を置き忘れないための三つの対策」を紹介する。

  • 電車で傘を忘れてしまう理由と予防策とは
    電車で傘を忘れてしまう理由と予防策とは
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高級な傘は忘れない

   まずは、2万円くらいの高価な傘を常用すること。確かに、絶対に失くしたくない、心から大事だと思っているモノはめったに失くさない。筆者が例示するのは初めてのデートの約束だ。これが結婚して何年かすると、同じ相手との約束を忘れる。高級傘が、いつの間にか心の中で、くたびれたビニール傘になっていたわけか。重要性の認知と言うらしい。

   二つ目は、傘をどこにも置かない、つまり手放さないこと。自分の忘れっぽさを自覚する芳賀さんは、雨の日は折り畳み傘を鞄に出し入れしつつ移動するそうだ。

   三つ目は、傘を持たないと降りられない状態で電車に乗ること。運よく座れても傘を手すりに掛けたりせず、たとえば自分の両足に挟んでおく。これなら、意図せず置き去りにするのは物理的に難しい。筆者によれば、これが最強の対策である。

   「どの対策をするにしても、最後に『後ろを振り返る』のはお忘れなく。『自分は忘れ物をする人間なんだ』と自覚し、毎回確認するのです」...直前までスマホを見ていると、着駅のアナウンスに慌てて何か忘れてしまうもの。そう、バタバタするのはいけない。

「人の注意力には限界があります。多くのことに同時に注意を配ることは難しく、どこかに注意がいくと情報処理のリソースが足りなくなり、ほかが疎かになってしまう」

   以下の結論は、いたって常識的である。

「だからこそ駅につく前...それまで熱中していた活動をやめて、降りることに備え、余裕を持つこと。それが傘に限らずすべての忘れ物を防ぐひとつの手になると思います」

真に最強の対策とは

   ざっくり要約すれば「電車で傘をなくさない法」だが、大手ビジネス誌の読者なら、電車や傘といった設定を一般化し「何かを失わないための鉄則」として消化するに違いない。

   そこでのキーワードは「余裕」だろう。すなわち時間と心に余裕があれば、落とし物と違い、忘れ物は防ぐことができる...ということになる。

   私もそそっかしいほうだが、ここまで致命的な忘れ物はない。札幌に出張したおり、会社の先輩に散々ご馳走になった後、ホテルに送ってもらうタクシーで財布がないのに気づいた。隣席の先輩には申し訳ないが、複数のクレジットカードを止めたり、二次会で寄ったスナックに問い合わせたりと、平静を装いつつ青くなって電話をかけまくった。

   財布には免許証なども入れている。面倒なことになったと落胆しながらホテルの部屋に戻ったら、テレビ横のテーブル上に見慣れたそれがあった。なんのことはない、財布をホテルの自室に置いたまま外出するというマヌケな話。何時間かの心痛は、はなから先輩に甘えすぎた罰だと恥じ入った。そこで結論。

   傘から財布まで、何かを失くさない最強の対策は...持ち歩かないことじゃないか。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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