主人公の心情に沿わないと映画がダメになる
映画は、捕まることになった一つの事件を軸に展開してゆく。県議会の実力者の家に深夜忍び込んだ彼は、そこで家に放火しようとしている妻を目にして、それを止めに入る。そして、そこにいるはずのない幼なじみの刑事に逮捕されてしまう。ちなみに演じるのは事務所の後輩、竹原ピストルだ。刑事は、なぜそこにいたのか、妻はなぜ家に火をつけようとしていたのか、そして、主人公はなぜ司法試験エリートの道を捨てて泥棒になったのか。地方政治の権力の暗部とそれに翻弄される男女の愛憎と悲哀。彼が歌う主題歌「影踏み」が流れるのは、思いもかけない結末の後のエンディングで、だった。
山崎まさよしは、筆者が担当しているFM NACK5の「J-POP TALKIN'」(11月23日・30日放送)のインタビューで、主題歌の「影踏み」についてこう言った。
「編集前のラッシュを見ながら書きました。自分で演じているわけですから主観が入ってしまって微妙な気持ちでしたね。客観的に音楽を付けられるようになるまで何度も見直しました。映画の主題歌で一番喜ばれるのは、たいていが"感動的なバラード"なんです。でも、映画に出て主人公の心情も味わっているんでそれに沿ったものじゃないと映画がダメになる。余韻を残したかった」
映画主題歌の「影踏み」は、映画公開直前に発売になった彼の3年ぶりの新作アルバム「Quarter Note」に収録されている。でも、余韻を強調した映画バージョンとは長さも違う。11曲入りのアルバムの後半の柱のような重要な役割を果たしている。
とは言え、アルバム「Quarter Note」は「影踏み」のアルバムではない。重要な役割は果たしているものの、そこに頼っていない。来年のメジャーデビュー25周年を前にした過去・現在・未来。アルバムの中の「ロートル・ボクサー」は2002年に書かれてそのままになっていた曲だと言った。アルバム一枚を通して、サンバやレゲエ、ソウルやブルース、そしてハードロック、彼のキャリアの中にある様々なタイプの音楽が「25年」という流れを形作っている。