絵葉書のアルハンブラ宮殿から着想 ドビュッシー「ラ・プエルタ・デル・ビーノ」

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「この上なく完璧な『スペイン』を曲で表現した」

   全12曲からなる「前奏曲集第2巻」は、ドビュッシーの集大成ともいえる最後期のピアノ作品となりました。題名で先入観を持ってほしくない、との願いから、各曲の末尾にしか題名を書かなかったドビュッシーですが、もちろんそれらはフランス語でした。ただ1曲、「ラ・プエルタ・デル・ビーノ」のみ、現地の言葉であるスペイン語で書かれています。ドビュッシーは、スペインといえば、フランス国境にほど近い北部のバスク地方に少し足を踏み入れた程度ですが、自作のモチーフとしてたびたびスペインの情景を取り入れており、スペイン贔屓だったことをうかがわせます。この時代のフランスは、シャブリエの「狂詩曲スペイン」や、ビゼーの歌劇「カルメン」など、スペインの土地や文化のエキゾチズムが流行となっていたことも影響しているかもしれません。

   「ドビュッシーは、ただのワンフレーズもスペインの民謡などを引用したわけではないのに、この上なく完璧な『スペイン』を曲で表現したのだ!」・・・とファリャに激賞されたこの曲は、歴史の重なりを感じさせる、そしてどこか怪しさが漂う旋律やリズムを持っています。

   現地に足を運んだことがなく、絵葉書を見て書いただけなのに、この曲は評判となり、現在では、グラナダ・アルハンブラ宮殿の葡萄酒の門に、「ドビュッシーによって作曲された」と、プレートが掲げられています。

   芸術は、優れた芸術家の豊かなイマジネーションから生まれ、時として現実を超える・・そんなことを考えてしまう名曲です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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