「この上なく完璧な『スペイン』を曲で表現した」
全12曲からなる「前奏曲集第2巻」は、ドビュッシーの集大成ともいえる最後期のピアノ作品となりました。題名で先入観を持ってほしくない、との願いから、各曲の末尾にしか題名を書かなかったドビュッシーですが、もちろんそれらはフランス語でした。ただ1曲、「ラ・プエルタ・デル・ビーノ」のみ、現地の言葉であるスペイン語で書かれています。ドビュッシーは、スペインといえば、フランス国境にほど近い北部のバスク地方に少し足を踏み入れた程度ですが、自作のモチーフとしてたびたびスペインの情景を取り入れており、スペイン贔屓だったことをうかがわせます。この時代のフランスは、シャブリエの「狂詩曲スペイン」や、ビゼーの歌劇「カルメン」など、スペインの土地や文化のエキゾチズムが流行となっていたことも影響しているかもしれません。
「ドビュッシーは、ただのワンフレーズもスペインの民謡などを引用したわけではないのに、この上なく完璧な『スペイン』を曲で表現したのだ!」・・・とファリャに激賞されたこの曲は、歴史の重なりを感じさせる、そしてどこか怪しさが漂う旋律やリズムを持っています。
現地に足を運んだことがなく、絵葉書を見て書いただけなのに、この曲は評判となり、現在では、グラナダ・アルハンブラ宮殿の葡萄酒の門に、「ドビュッシーによって作曲された」と、プレートが掲げられています。
芸術は、優れた芸術家の豊かなイマジネーションから生まれ、時として現実を超える・・そんなことを考えてしまう名曲です。
本田聖嗣