流行にかぶれるべし
「雑誌は売れたら営業のおかげ、売れなかったら編集のせい」(東郷さん)と言われる世界。ロックは男のモノという意識がまだ残る時代、彼女は人気誌の編集長を10年以上務めた。当時の読者は7割が男性だったが、編集長はなぜか三代続けて女性(星加ルミ子~水上はるこ~東郷かおる子)だった。
編集部にも女性が多く、取材先で「化粧くさい」と言われながら面白い企画を練っていた。「悔しかったらスターのひとりも育ててみたら」の心意気で。
そんな先駆者が説くキャリア人生は、万人向けではないかもしれない。だが「恥ずかしがらずにミーハーでときめこう」という結論は、応用が利きそうだ。
広辞苑によれば、ミーハーとは〈世の中の流行にかぶれやすいこと、また、そのような人〉。音楽雑誌の編集者なら、ミーハーは最低条件だろう。凡百とは違う図抜けたミーハーだからこそ、到達した境地があり、そこからしか見えない景色があるはずだ。
東郷さんが社会人になりたての70年前後、中学生の私は、ある意味クイーンの対極にあるカントリーロックに夢中になった。洋楽に関する情報のほとんどが、レコードや深夜放送の「音」だった時代の、粗野だが熱い感受性を思い出させてくれた全3回の半生記。私が音楽方面に進めなかったのは、「平凡な」ミーハーだったからと思われる。
冨永 格