幸せの証拠
ブータンの人たちが辛いものを好んで食すのは、もちろん、自暴自棄になっているのではない。親から受け継がれた伝統食だからである。激辛と幸せは普通に両立するのだ。
そこらを、マジメなふりして考察する松尾さんの文章術。オチに「激辛対応グッズの商品化」を持ってこられては、どこからが冗談なのか分からない。アントニオ猪木やら、日韓チーズ煮込みやらの小ネタもちりばめ、読者サービスが行き届いた一作だと思う。
そういえば、「辛」という字に横棒を1本加えれば「幸」になる、という言説が流布したことがあった。あなたの辛(つら)さも、ちょっとしたことで幸せに転じますよという励ましだろうが、ならば幸せな日々も棒を1本失うだけで辛苦に転じる道理で、漢字アソビの域を出ないと思ったものだ。
その点、辛(から)さと幸福の間にはブータン王国という確たる実質がある。しかも濡れそぼった手拭いという、幸せの証拠まで残るのである。
冨永 格