辛さと幸せ 松尾スズキさんは手拭いを頭に巻いてブータン料理に挑む

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幸せの証拠

   ブータンの人たちが辛いものを好んで食すのは、もちろん、自暴自棄になっているのではない。親から受け継がれた伝統食だからである。激辛と幸せは普通に両立するのだ。

   そこらを、マジメなふりして考察する松尾さんの文章術。オチに「激辛対応グッズの商品化」を持ってこられては、どこからが冗談なのか分からない。アントニオ猪木やら、日韓チーズ煮込みやらの小ネタもちりばめ、読者サービスが行き届いた一作だと思う。

   そういえば、「辛」という字に横棒を1本加えれば「幸」になる、という言説が流布したことがあった。あなたの辛(つら)さも、ちょっとしたことで幸せに転じますよという励ましだろうが、ならば幸せな日々も棒を1本失うだけで辛苦に転じる道理で、漢字アソビの域を出ないと思ったものだ。

   その点、辛(から)さと幸福の間にはブータン王国という確たる実質がある。しかも濡れそぼった手拭いという、幸せの証拠まで残るのである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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