ガムの味あて 壇蜜さんはマスカットを青リンゴと誤認して自虐の一句

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殿方の感性に響く

   ちなみに、冨永の手元にあるロッテのキシリトールガム「選べる7種アソート」の味と色のラインナップは、スウィーテイ(黄)ピーチ(薄ピンク)マスカット(黄緑)グレープ(紫)オレンジ(橙色)ライチ(水色)ベリー(濃ピンク)である。青リンゴという味はないので、メーカーが違うのか。あるいは、あえてフレーバーを事前に確認せず、白紙の状態で「味あてクイズ」に挑んだ壇蜜さんの直感かもしれない。

   若い男の眠気防止策から、味覚の不確かさへと展開する本作。その価値はもちろん、夜走り君の味遊びを自宅で再現してみたところにある。

   実験場となったのは脱衣所。壇蜜の脱衣所...あらぬ想像をするのは読者の自由だが、多くの住まいと同様、彼女の洗濯機が風呂場の横に置かれていた、というだけの話だ。

   自らに課したクイズに敗れた筆者は、彼我の違いに思いを馳せたのかもしれない。稼ぐため、安全運転を目的にひたすらキャンディーを舐める彼と、洗濯の暇つぶしにガムをかむ私。負けて当然と思ったかどうかはさておき、締めの句の「愛らしい自虐性」は心地よく新潮読者層の腹に転がり落ちる。おっさん殺しの、よくできた仕掛けだと思う。

   今さらながら、蠱惑(こわく)の女性である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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