殿方の感性に響く
ちなみに、冨永の手元にあるロッテのキシリトールガム「選べる7種アソート」の味と色のラインナップは、スウィーテイ(黄)ピーチ(薄ピンク)マスカット(黄緑)グレープ(紫)オレンジ(橙色)ライチ(水色)ベリー(濃ピンク)である。青リンゴという味はないので、メーカーが違うのか。あるいは、あえてフレーバーを事前に確認せず、白紙の状態で「味あてクイズ」に挑んだ壇蜜さんの直感かもしれない。
若い男の眠気防止策から、味覚の不確かさへと展開する本作。その価値はもちろん、夜走り君の味遊びを自宅で再現してみたところにある。
実験場となったのは脱衣所。壇蜜の脱衣所...あらぬ想像をするのは読者の自由だが、多くの住まいと同様、彼女の洗濯機が風呂場の横に置かれていた、というだけの話だ。
自らに課したクイズに敗れた筆者は、彼我の違いに思いを馳せたのかもしれない。稼ぐため、安全運転を目的にひたすらキャンディーを舐める彼と、洗濯の暇つぶしにガムをかむ私。負けて当然と思ったかどうかはさておき、締めの句の「愛らしい自虐性」は心地よく新潮読者層の腹に転がり落ちる。おっさん殺しの、よくできた仕掛けだと思う。
今さらながら、蠱惑(こわく)の女性である。
冨永 格