郷土閥と学校閥 伊集院静さんは「何かに属すること」を拒んできた

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「己の力量」への自信

   締めくくりこそ、読者サービスのユーモアでまとめてはいるが、群れない生き方はこの作家の一貫した美学と思われる。

   間もなく70歳になる伊集院さん。周知の通り、起伏の激しい波乱万丈の半生である。

   山口県防府市の出身で、立教大学から電通へというキャリア。山口といえば、現職をはじめ何人もの総理大臣を出した土地柄で、県人の結束は固そうだ。立教出も各界で活躍しており、学閥の効用は小さくないだろう。しかしそんなものを頼るまでもなく、CMディレクターとして、文筆家として早々に名を成した人なのだ。「己の力量」への並々ならぬ自信と実績が、コラムの歯切れよさを担保している。

   さて、私のことも書かねばなるまい。結論から言えば、郷土閥、学校閥とも縁は薄く、高校の同窓会にたまに出る程度である。

   当コラムのプロフィールに「静岡生まれ」とあるが、18歳で故郷を離れたままで、交流があるのはひと握りの中高クラスメートくらい。東工大から文系王国の新聞社へという変則キャリアのため、学閥の御利益にも浴さなかった。

   そもそも記者のキホンは個人プレーだし、私の場合、力量より人事の巡り合わせに恵まれ、群れる必要がなかったというのが事実に近い。

   だからなのか、伊集院さんの思いには共感できる点が多い。ただし「妙なことを今週は書いていると思う」という、ダンディな含羞だけは真似できない。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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