誤った情報信じ治療拒否した患者も
父親をがんで亡くし、自らも子宮頸がんを経験した松本氏は、2008年に「おれんじの会」を設立し、多くのがん患者・家族の話を聞いてきた。
最近は、医療者ががん患者に薬を処方する際、その効果や副作用について説明するようになってきているが、テレビや書籍から薬について間違った情報を得ている患者は、服薬を不安に思うことも多いという。
松本氏は2013年に「治療はすべて拒否しようと思っています」と話すがん患者に出会った。
まだ20代の若い患者で、祖母が10年前に治療を受け、苦しみぬいた末に亡くなっていた。「あんなふうになるのは絶対に嫌なんだ」と治療を受けず、痛み止めについても
「痛み止めを使うことで、余計に苦しむ時間が長くなるだけだとネットで読みました」
と拒んだそうだ。
2018年にも、医療用麻薬を処方されている患者の家族から「本人には『麻薬』を使っているとは言えません」と相談を受けた。医療用麻薬のことを「麻薬」と呼び、
「最近少し変なことを言ったりするようになったのは、あの麻薬のせいに違いないんです」
「痛みを取るために、あんな麻薬を使わずにすむ方法はないのかと思っています。週刊誌に出ていた方法を試しに行ってみようと思っているんです」
と話したという。
松本氏は、医療用麻薬への正しい理解を促すために、当事者の声を伝えることが有効だと考えている。
がんで亡くなった故・小林麻央さんが2017年1月6日に投稿したブログ記事では、痛み止めを「痛み止め様」と呼んでいることが記されている。「(痛みを)コントロールができているときはとても穏やかな気持ちでいられる」という内容で、がんとは関係ないと思われる読者から「お薬ってそういう風に使うんですね」とのコメントが寄せられたという。この記事は、医療用麻薬の理解に非常に良い影響を与えたと思う、と松本氏は話した。
セミナーの最後に行われたパネルディスカッションで細川氏は、近年がん治療では「痛み」を除いた方が効果が上がることがわかってきている、と説明した。
塩野義製薬の調査によると、がん患者が治療について相談するのは医師に次いで配偶者・パートナーが多い。子どもや親、兄弟姉妹、友人知人など身近な人に相談する人も一定数存在する。
効果的な治療が行われるためにも、多くの人に医療用麻薬について正しい知識を広める必要がある、と同社CSR推進部適正使用推進室長の外川真吾氏は結論づけた。