起承転結のおさらい
恋仲になった片手鍋と丼...日常のひとこまを切り取っただけの小文だが、冒頭に展開する難題の説明からしてユーモラスだ。後半の「解決編」では、仲よくケンカしな(♪)的な父娘の関係性もにじみ出して、まことに微笑ましい。
コラムだけでなく、こうしたエッセイでも「起承転結」がくっきりした作品は読みやすい。完成された短文の「解剖」など野暮の極みと知りつつ、少しだけおさらいしてみたい。
「起こす」...丼が片手鍋にはまって動かず、さあどうしたものか。
「承ける」...「男性の筋力」を見込まれたお父さんが到着、状況は好転せず。
「転じる」...ここは力ではなく知恵だと、グーグル先生を頼る。ヒーロー登場。
「結ぶ」...見事に丼と鍋が分かれ大団円、父親への感謝も忘れずに。
作中、三浦さんの父上はピエロのような役回りを演じ(させられ)ているが、近所とはいえ娘のSOSに即応し、彼なりの努力をする。間違いなく「いいお父さん」だと思う。そして「いい親子関係」でもある。
もちろん、親子でも人間だから、鍋と丼のようにピッタリとはいかない。互いに言いたいことを言い、罵倒し、結果に興奮して喜び合う。三浦さん書くところの「醜い言い争い」も、仲良し親子の、ありふれたやりとりだろう。ちなみに、馳せ参じた父上は『口語訳 古事記』(2002年、文藝春秋)などで知られる古代文学者、三浦佑之さんだ。
一歩引きながら、ほどよい自虐を交え、ハラハラさせつつ、読者が幸せな気持ちになる結末を用意する。だれにも書けそうで簡単には書けない、プロの技である。
冨永 格