くっついた鍋と丼 三浦しをんさんは難題を前に「グーグル先生」を頼った

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起承転結のおさらい

    恋仲になった片手鍋と丼...日常のひとこまを切り取っただけの小文だが、冒頭に展開する難題の説明からしてユーモラスだ。後半の「解決編」では、仲よくケンカしな(♪)的な父娘の関係性もにじみ出して、まことに微笑ましい。

   コラムだけでなく、こうしたエッセイでも「起承転結」がくっきりした作品は読みやすい。完成された短文の「解剖」など野暮の極みと知りつつ、少しだけおさらいしてみたい。

   「起こす」...丼が片手鍋にはまって動かず、さあどうしたものか。

   「承ける」...「男性の筋力」を見込まれたお父さんが到着、状況は好転せず。

   「転じる」...ここは力ではなく知恵だと、グーグル先生を頼る。ヒーロー登場。

   「結ぶ」...見事に丼と鍋が分かれ大団円、父親への感謝も忘れずに。

   作中、三浦さんの父上はピエロのような役回りを演じ(させられ)ているが、近所とはいえ娘のSOSに即応し、彼なりの努力をする。間違いなく「いいお父さん」だと思う。そして「いい親子関係」でもある。

   もちろん、親子でも人間だから、鍋と丼のようにピッタリとはいかない。互いに言いたいことを言い、罵倒し、結果に興奮して喜び合う。三浦さん書くところの「醜い言い争い」も、仲良し親子の、ありふれたやりとりだろう。ちなみに、馳せ参じた父上は『口語訳 古事記』(2002年、文藝春秋)などで知られる古代文学者、三浦佑之さんだ。

   一歩引きながら、ほどよい自虐を交え、ハラハラさせつつ、読者が幸せな気持ちになる結末を用意する。だれにも書けそうで簡単には書けない、プロの技である。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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