地名のワナ 渡辺静晴さんは高校生の会話を聞いて校閲マンに変身した

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感謝の缶入りあられ

   新聞や雑誌の品質管理において、校閲の仕事は文字通り最後のとりでだ。よく読まれる「天声人語」のようなコラムについては、念には念を入れて精査してくれる校閲者が多い。私の時代は、暮れに執筆陣(といっても2人だが)のポケットマネーで、大きな缶入りあられを贈るのが常だった。昼夜を分かたぬ精進への感謝である。なにしろ、お陰で命拾いした経験は二度や三度ではきかない。

   内外の地名は、渡辺さんが書くように「たまに変わる」から始末が悪い。国内では市町村の合併が曲者だろう。文字列にしれっと隠れたミスを発見するには、集中力はもちろん、森羅万象についての豊かな知識と、たゆまぬアップデートが欠かせない。

   そして何より、マケドニアに渡辺さんが感じた「何か引っかかるもの」を捉える感性が必要だ。それはたぶん、失敗を含む経験でしか培われないものだろう。

   校閲に関するコラムでありながら、机上のレクチャーや豆知識に終わらず「現場」に出ているのがいい。「表現の審判員」もジャーナリストなのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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