何もしないバカンス 茂木健一郎さんが説く「脳の空白」の効用

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パンパンで勤務地へ

   さて、本場ヨーロッパの長いバカンスも終わり、勤め人たちが保養地の土産を気だるく交換する頃である。欧州勤務が長かった私だが、浜辺でゴロゴロするようなホンモノのバカンスは数えるほどしかなかった。ただ、そんな休暇から戻った時のリセット感は覚えている。若ければ「忘れかけた志」を、働き盛りなら「本来の自分」を取り戻すのだろう。

   私の場合、そもそも脳みその容量の問題もあるのだが、脳内にこじ開けた空白は連載の構成やら新企画のアイデアやらでたちまち埋まり、頭がパンパンになって勤務地に戻るのが常であった。思えば働き中毒だったのだろう。

   退職後、カネはともかくヒマはできたのだが、脳の空白を生み出す必要性が大幅に薄れている。この連載以外に「追われる仕事」は見当たらず、疲れを自覚することもない。いわば毎日が、見飽きた風景の中で続くチープなバカンスなのだ。

   だから、今さらではあるが、オンとオフのコントラストが鮮やかな生活に憧れる。

   何もしない贅沢と、それによる脳の「再生」は、しゃかりきに働いた人の特権なのだろう。要は、スイッチを切れる度胸と余裕だと思う。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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