ゴリラになる話 山極寿一さんは強弱で決着をつける人間社会に物申す

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   Tarzan(8月22日号)の「感覚的身体論」で、京都大学総長の山極寿一さんがゴリラについて書いている。京大トップを務めて5年近く...というより、霊長類学者として知られる人である。1978年から続けるゴリラ観察のフィールドはアフリカのジャングル。今の立場は何かと窮屈だろうと、余計な心配をしている。

「ゴリラは人間を映す鏡です。ゴリラと人間は時代を遡れば共通祖先に行きつくわけだし、遺伝子も近い...戦後の日本で誕生した霊長類学は、野生のニホンザルの調査研究を通して『人間以外の動物にも社会が認められる』という、欧米の人類学になかった新しい視点をもたらしました」

   霊長類には我々ヒトのほか、ゴリラやチンパンジー、オランウーランなどの類人猿、その他のサル等が含まれる。人間社会の起源を知るには、類人猿の社会を野生地で研究し、彼我を比較することが重要な作業になる。研究者の戦場である。

「まずゴリラに『なってみる』ことが大切です。人間って真似がうまいから何かに『なってみる』ことができるんですね...存在そのものになった感覚を味わうことができる...ゴリラがどういうことを気にして、どういうことを見ながら社会を作っているのか、カラダで感じなきゃ始まりません」
  • まずゴリラに「なってみる」
    まずゴリラに「なってみる」
  • まずゴリラに「なってみる」

オスは振り向かない

   ゴリラは毎日、ジャングルの違う場所で寝るので、ねぐらに見当をつけたら研究者はキャンプ地に戻り、食べて寝て、早朝の暗いうちに観察地に引き返す。その繰り返しだ。果実は夜のうちに熟す。その食べごろを欲するゴリラは、すばしこい鳥やサルに先を越されないよう、狙った果実の近くで寝る。もちろん、より競争が少ない木の葉や草も食べる。

「ゴリラのオスを見てると、まず絶対に後ろを振り向きませんね。それがゴリラのオスの威厳、強さの証明。振り返っちゃったら自分が弱い証拠になっちゃう」

   なんと「人間くさい」ことか。喧嘩になれば必ず仲間が仲裁に入るので、それを見越して争い始める。つまり「お互いメンツを保って引き分けること」を目論んでいる。

   「そこが賢いというか...人間だって勝ち負けじゃない社会を作ることができるはずなのに、やっぱり当事者同士で勝敗を決めて、強いか弱いかで解決してしまう傾向を持っている」...この点はゴリラ以下の、残念ながら「サル的」な部分でもあるらしい(トホホ)。

「マウンティングっていうのは、(類人猿以下の=冨永注)サル社会のあり方なんですね。人間の社会は時間をかけて強弱だけでない解決策を築いてきたのに、人の移動が頻繁になり、インターネット上のやり取りも増えて、サル的な勝ち負けで単純に決着をつける傾向が強まってきた。それでよいのだろうか?」

   こうした「気づき」こそが、フィールドワークの果実、醍醐味ということである。

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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