インバウンド立国ニッポンへ
国内外の事例紹介し提言

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   ■インバウンド・ビジネス戦略(早稲田インバウンド・ビジネス戦略研究会著、日本経済出版社)

   2018年の訪日外国人客数は、前年比87%増の3119万人。2017年に世界で外国に旅行した人数13億2000万人の中で世界12位にまで上昇した。フランスが年間7000万人であるから、その後姿も視野に入っている。本書は、観光のパラダイムをシフトし、観光産業に関連する幅広い関係者が戦略を策定するとともに、中長期の検討を行うよう提言している。

インバウンド観光の二つの課題

   日本のインバウンド・ビジネスには大きく二種類の課題があるという。一つは、おもてなしを指向するあまり、サービスに従事する人たちの賃金と労働時間に無理がきており、これからの観光客数の増大が利益とやりがいにつながらないという課題である。世界では、サービスのレベルと価格をバランスさせ、客数が増えるときに限界利益が得られるように価格を調整する動きが進んでいる。東南アジアでは寺院や国立公園の利用料金を2倍から50倍に引き上げている。割安感で集客することが、むしろ観光公害や人不足を招くことに対応しようとしている。

   もう一つは、海外の富裕層が求めるサービスを提供できていないという問題である。世界の五つ星ホテルは、フランスに128軒、中国に137軒、タイに112軒あるのに日本には32軒しかない。日本の離島には豪華なヨットやクルーズ船を利用できる環境があるとはいえない。

   世界の主要都市ではグローバルなブランドやサービスがあふれる一方で、その都市らしさを感じられることが難しく、ローカルを感じさせる地区を回る旅行に人気がある。その事例として、東京の谷中(やなか)があげられている。訪問者にとって現地の人々との距離感が近く交流ができることも魅力となっている。谷中の風景はどこか懐かしく、観光地化されていないありのままの東京の姿を楽しめる。こうした着想をもてば、いわゆる「なにもないいなか」にも観光商品を見出すことができる。

   観光商品の価値は、言い換えれば「経験」であり、価値の創造にマーケティングとイノベーションが必要となるのは、他の産業と同じである。

   訪問客を価値ある経験をともに創り出す「共創者」と位置づけ、訪問者との交流からさらなる価値を生み出すサイクルが重要になっている。そのためにも、旅マエから旅アトまで、訪問者とインバウンド・ビジネス関係者が、横断的に利用できる観光アプリの重要性が高まっている。フランスは政府が中心になって2017年にデータ・ツーリズムというプラットフォームを立ち上げた。その成果はこれからであるが、宿泊、移動、イベントなど分野ごとに異なるネットワークを統合する動きは、日本の観光地の価値をますますあげていくことに貢献するのではないか。

地域のストーリー

   自分たちの地域は、観光客にどうみえているのか?

   この問いに挑み、国内外から30万人の観光客を迎える町が、人口8000人の青森県田舎館(いなかだて)村である。あるきっかけから、紫と黄色と緑の三色の稲で田んぼに文字と絵を描いた。20年以上の経験の積み重ねで、いまではコンピュータ技術や遠近法を駆使して、写楽の浮世絵やモナリザで訪問者を喜ばせる。稲作のない時期も、真っ白な田んぼに歩いて模様を描くスノーアート、6色の小石を並べて絵を描く石アートを提供し始めた。

   ブランド価値の創造に、顧客との対話を利用した地域が福井県。京都や金沢にひけをとらないブランド価値を得るために、福井ガストロノミー協会は「良いと思って買ってみたら福井産だった」という運動を始め、厳しい顧客の目に応えられるように、参加者が自らに品質基準を課したのである。また。フランスのグルメガイドと協力してヨーロッパでの知名度向上にも取り組んでいる。

    インバウンド観光客が年々増加する日本にとって、訪問者との対話・交流を通じて自らの地域の価値に気づき、さらに洗練された価値作りを行う。その重要性を著者は説いている。また、そのための人材育成、高等教育のあり方、観光地の総合的なマネジメントなどについても内外の最新事例が紹介されており、読者の問題意識に応じて多くの示唆が得られる。

<経済官庁 ドラえもんの妻>

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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