「レトリックではなくて、トリックではないか」
本書の第I部では、大蔵官僚として「昭和財政史―終戦から講話まで」(東洋経済新報社)にかかわり、第3巻「アメリカの対日占領政策」(1976年7月)を刊行する際、国会での紛糾を恐れた上司の修正要求をはねつけるために、大蔵省を退官した経緯に淡々と触れる。また、戦後の「岩波・朝日文化人」を代表する歴史家・家永三郎氏との激しい論争の顛末、いわゆる慰安婦問題への関わりなども、たいへん示唆深い。さらに、戦前の歴史研究の基礎資料としての「日本陸海軍総合事典」の作成なども非常に高く評価されるものだろう。
第II部で、氏の経験則から得た、歴史の観察と解釈についての知恵あるいは指針として、「1.一般理論は存在せず、部分理論しかない」、「2.真理は中間にあり」、「3.職人意識を忘れない」をあげ、最近の風潮では、「事実よりも真実を」と巧みなレトリックに訴える人の存在を指摘し、そのような場合、「レトリックではなくて、トリックではないか」と疑うという。令和の時代には、氏の冷静な視点が世の中できちんと共有されればと願う。
経済官庁 AK