不思議な雰囲気を残したまま曲は終了
そんなシベリウスが「珍しく」ピアノの小品を書いたのは、戦争の影響でした。国外からの印税受け取りが難しくなり、いわば「すぐ売れて、お金になる」作品の必要性に迫られたからです。結果的にシベリウスのピアノ曲の中でもっとも人気があり、彼の語法を広く知らしめることになったこの曲集が、歴史の偶然から登場したと考えるのも、興味深いことです。
5曲からなる「樹木の組曲」は、最終曲「樅ノ木」が、あたかもジャズの即興演奏にも通じるようなアンニュイな雰囲気とともに人気が高く、アンコールピースなどでももっとも頻繁に演奏されますが、第4曲「白樺」もそれに勝るとも劣らない人気があります。
北欧の短い夏、白樺林を吹き抜ける風のようなアルペジオで始まり、不思議な響きのまま曲は続きます。あたかもその林に迷い込んでしまったかのような・・・そして、わずか1分40秒ほどで、不思議な雰囲気を残したまま曲は終了するのですが、さわやかな清涼感が残ります。
暑い夏の時期にお勧めの、シベリウスの小さな傑作です。
本田聖嗣