■『気候正義 地球温暖化に立ち向かう規範理論』(宇佐美誠編著、勁草書房)
評者の関心のひとつに、世代間にまたがる長期の公共政策の問題がある。これまでも、「霞が関から読み解く漫画版ナウシカ:ポリフォニックな喧噪を愉しむ」(2017年2月)、「再訪『フューチャー・デザイン』」(2019年4月)などで、関連する話題を取り上げてきた。
これからの数世紀にわたり、地球温暖化問題が人類を悩ます最大の課題になることは間違いないことである。気候変動に伴う直接の災害にとどまらず、気温上昇に伴う疫病、居住に適さなくなった土地からのあふれ出る難民、政治紛争など、その影響は計り知れない。
それでも、温暖化への政策対応は遅々として進まない。一般の関心は決して高いとはいえない。選挙で具体的な争点になることはない。新聞・テレビをみても、一応カバーしておかねばならないトピックではあるとしても、その扱いは市民たる者ある程度の知識は持っておこうよという程度のものである。
地球温暖化問題への「ものの考え方」
『気候正義』は、我が国を代表する法哲学者のひとりで、世代間問題の研究をリードしてきた京都大学の宇佐美誠教授によって編まれた論文集である。感情に働きかけることを通じ、温暖化問題への関心を高める類の著作ではない。温暖化問題への対応策を編み出すにあたって必要な「ものの考え方」について、世界の哲学者の間で交わされている議論を整理し、独自の思考を交えることで、我が国の読者の思考枠組みをステップアップすることを狙いとした著作である。「ものの考え方」は、人の行動を内面から変えることで、世界の様相を一変する力を秘めている。本書を契機に温暖化問題への世間の関心が劇的に高まることはないだろうが、「ものの考え方」を変えることを通じ、感情に訴えかけることにもまして、温暖化対策を進める力となることを期待する。