20世紀を20年以上先取りした先見性
「ラ・カンパネラ」や「エステ荘の噴水」や「タランテラ」や「ピアノソナタ ロ短調」といった、演奏会映えする、長い曲を多く残したリストですが、晩年作曲したピアノ曲は5分程度のごく短いものが多く、しかも、斬新なものが多くなっています。どこが斬新かというと、クラシック音楽の根幹である長調や短調といった「調性」から、逸脱気味で、彼の没後20世紀になってから登場する「無調音楽」に通じるところがあるのです。
「暗い雲」は、まさにその題名の通り、不気味かつ陰鬱な雰囲気の旋律から始まる短い曲です。しかし、単なる雲や天候の描写ではなく、19世紀の様々なシーンを生き抜いたリストが到達した、深い哲学的な境地を思わせる曲となっています。
多くの彼のレパートリーとは異なり、華やかでも分かりやすくもありませんが、じっくり噛み締めて聴きたいリストの晩年の味のある曲です。そこには20世紀の未来を20年以上先取りしたリストの先見性をも見ることができます。
本田聖嗣