意外なカミングアウト
筆者によると、全国の児相に寄せられる虐待関連の相談は増え続け、昨年は13万件を超えた。虐待そのものが増えているというより、世間の関心が高まり、第三者からの通報が増えたこともあろう。過去16年で相談件数が9倍になったのに、現場で対応にあたる専門職は2倍強にしか増員されていない。
厚労省で児童福祉のトップも務めた村木さんにすれば、受け入れがたい現実だろう。彼女は現場の人員充実を「世論の力で応援したい」という。もちろん省益追求のたぐいではなく、一線の負担を減らして、ていねいな仕事をさせてほしいということだ。
児相では、児童心理司や児童福祉司などの専門職が、医師らと協力して働いている。人員不足によって、救える命が救えないのでは何のための児童福祉か分からない。
私は本作の後半部分に、より感銘を受けた。自らの幼児体験から、弱い人間は自分を守ることで精いっぱいなのだという悔悟、意外なカミングアウトである。
取材を通じて人には会っているほうだが、己を「弱い」と認められる人が、本当に弱かったためしはない。
冨永 格