瓦を割った瞬間「あれ?」
「瓦割りカワラナ」では専用のグローブをつけたうえで、空手・拳法などで使われる打ち技「鉄槌」で瓦を割る。親指を外に出して拳を握り、ハンマーのように振り下ろして小指側の面を撃ち付けるのだ。
本番前に記者は川口さんから鉄槌の打ち方、正しいフォームや足の位置・構えの指導を受ける。コツは、(1)1番下に積んである瓦を撃ち抜くつもりで、(2)直線を描くようにまっすぐ拳を振り下ろし、(3)的(写真4、瓦の上に置いてあるタオルの赤丸)を正確に射ることだ。
「成功させるために意識すべきことは色々ありますが、やはり一番は『気持ち』。どれだけフォームを整えても、本番で腰が引けてしまっては割れるものも割れなくなります」(川口さん)
一通りアドバイスをもらい、瓦の前に立った。「気合い入れてお願いします!」と川口さんに喝を入れられ、頷く。「せいっ」と声を上げて振りかぶった拳を、地面を殴り付ける勢いで撃ち下ろした。
次の瞬間、ガシャーン、と砕け落ちた瓦を前に覚えたのは爽快感――ではなく「あれ?割れた?」という疑問。瓦に触れた感覚こそあったが、思ったほど衝撃や痛みがなかったため、全て割れたのかわからない。恐る恐る川口さんに成功したのか尋ねると、「素晴らしい!」と笑顔で誉めてくれた。大きな達成感を得られたのは、割れずに残っている瓦がないことを確かめた時。これは気持ちいい。
「的にしっかり当たっていると拳への衝撃が少なく、痛みもありません。上手く割れたからこそ得られる感覚ですね」
川口さんから講評をもらって調子づいた記者は、東京五輪の成功を祈って瓦16枚に挑戦するため、この1年しっかり体を鍛えようと誓ったのだった。