「日米関係をどうしていくか」 江藤淳が格闘した課題の軌跡を追う

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■『江藤淳は甦える』(平山周吉著、新潮社)
■『「文藝」戦後文学史』(佐久間文子著、河出書房新社)

   先日、港の見える丘公園の中にたたずむ神奈川近代文学館に赴き、この7月15日まで開催の企画展「没後20年 江藤淳展」をみてきた。企画展の開催の趣旨は以下のとおりだ。

「評論家・江藤淳(本名・江頭(えがしら)淳夫(あつお) 1932~1999)は、慶應義塾大学英文科在学中、「三田文学」に「夏目漱石論」を発表して注目され、20代で華々しく文壇に登場しました。『小林秀雄』『成熟と喪失』『漱石とその時代』などの作家・作品論をはじめ、『海舟余波』『海は甦える』など近代日本草創期の政治家たちにスポットを当てた評伝、史伝を刊行し、戦後の文学界の第一線で活躍して大きな足跡を残しています。
また敗戦後、米軍占領下で行われた検閲の実態と影響を、アメリカでの公開文書の調査により検証した『閉(とざ)された言語空間』など、数々の作品で、戦後日本への問題提起を続けました。
本展は、今年江藤の没後20年を迎えるにあたり、これまでにご遺族から寄贈された貴重資料ほか関連資料を交えて、その生涯と業績を紹介するものです」

   評者としては、尊敬する林達夫が江藤の「海舟余話」を激賞した便りや、随想を愛読する堀田善衛からの緊張感ある関係を示す手紙の展示をみることができて有意義であった。

朝日新聞を強く批判した執拗さ・強さ

   この企画展の開催に合わせるべく世に問われたのが、平山周吉著「江藤淳は甦える」(新潮社)である。400字詰めの原稿用紙換算で約1500枚になるという大作で、本文だけでも750ページを越える分厚い本である。思想史家の先崎彰容・日本大学教授が、2019年6月22日付の日本経済新聞の書評で、『・・完璧な同時代史、社会思想史の作品になっている。三島由紀夫や小林秀雄、さらには吉本隆明とのライバル関係が活写され、文章に立体感を与えている。類似した本をあげよと言われれば、恐らく小熊英二氏の『〈民主〉と〈愛国〉』に相当するであろう」と指摘するが、その分厚さの類似といい、なるほど同感だ。通読して、すぐれた評伝というもののすばらしさをあらためて実感する。

   評者が、江藤淳に関連して最初に記憶にあるのは、この本の題名のもとにもなっている大作「海は甦える」の何作目かを、朝日新聞の書評が形式的な理由から取り上げなかったことについて、江藤淳が類似の事例では書評が掲載されたとして強い批判をした、その執拗さ・強さである。この本では取り上げられていない話題だが、この本を読めば、江藤のこのような戦闘的な側面を理解することができる。

   また、評者は、大学時代、江藤が問題提起した憲法学での当時の通説とされていた「8月革命」説への強い疑義や、日本が第二次世界大戦終結時に、軍隊ではなく国として「無条件降伏」したのかどうかの国際法上の議論には関心をもっていたので、江藤の占領史分野の業績は知っていた。ただ、これが江藤の世評を結果として高めず、低くしたというのは残念なことだ。

   この本でもひんぱんに参照される重要な著作「アメリカと私」を就職後に文春文庫(1991年3月)で読んで、村上春樹の「やがて哀しき外国語」(1994年2月 講談社)同様、日本の知識人が米国(ここでは東部名門のプリンストン大学)で暮らすと「反米」になるのはなぜかについて、考えるきっかけとなった。今回、この本を読むことによって、その意味についてより理解を深められたと思う。

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